『シェル・コレクター』坪田義史監督 単独インタビュー

INTERVIEW

『シェル・コレクター』

リリー・フランキーが15年ぶりに単独主演を務める映画『シェル・コレクター』の坪田義史監督にインタビューを行った。

―本作を作った経緯を教えていただけますか?
「シェル・コレクター」というアメリカの文芸作品に前々から興味を持っていて、舞台はケニア沖の孤島、それを日本に置き換え脚色しました。日本人として世界に発信出来る作品を作りたいと考えていました。盲目の貝類学者が主人公で、視界がない中で物語が進んでいくという、美しい自然と対峙し、肌で感じ取り、音で感じ、砂浜から拾い上げた貝に触れて、自然の創造性に感性がときめく。そういった感覚的な映画にしたいなと思ったのが今回の作品です。観客の視聴覚を触発して、感じる映画を作りたかったんです。

―原作は以前からご存知だったということですが、知ったきっかけは何ですか?
前作「美代子阿佐ヶ谷気分」は、安部慎一さんの私的漫画を原作に70年代の狭い畳部屋に暮らす男女の密室的なものだったので、今度はもっと大きく、視点が広いもので、自然と人が対峙する様を野外で撮りたいと思っていました。ちょうどその時期に知り合いのアートディレクターの方がこの本おもしろいからってすすめてくれたのがアンソニー・ドーアの「シェル・コレクター」だったんです。こんなにも自然に満ち溢れ、無限の広さを感じる中での虚無感みたいなものを描ければなと思って惹かれていきました。でも、それは惹かれていただけであって、まさか映画化するだなんて当時は思っていなくて。アメリカに渡米した際に、インディペンデントの映画のプロデューサーと出会って、こういった作品の権利を取得する方法などの話をしていて、その中で映画化の可能性が生まれてきたんです。

―原作とは舞台が変わって沖縄ですが、ほかに考えた場所はありますか?
アメリカの文芸作品を日本で脚色する際、奇跡が起こりそうな島を探し、沖縄が浮かんで、ロケハンに行きました。日ごろ見る海とは違って、自然の色彩に惹かれるものがあり、南国の色彩の中で生ぬるい風を感じる映画を撮りたいと思ってロケ地を沖縄に決めました。

―脚本は何度も作り直したのですか?
現実的にスケジュールのためにそぎ落としたのもあるんですけど、いろんなパターンが出来て、それをうまくまとめていきました。ニューヨークに滞在していた期間に、ニューヨークの単館で日本のATGの特集をやっていて、そこで見た勅使河原宏監督の『砂の女』(1964)が、シュールで。それが外国で字幕付きでモノクロで上映されている。外国人が見ても驚くような雰囲気を劇場で感じたんです。日本の文化をそこまで知らない人が「砂の女」を見て感動している姿を。日本にはインディペンデントな映画を上映できる劇場がなくなってきている現状を知っていたので、日本に限らず上映できる作品を作れないかなと企画段階から考えました。アートの面でも、やはりニューヨークはギャラリー文化が発達していて、目の前で何億っていう作品が売れていく、世界中のアーティスト達が本気で作品を売ろうという考えでやっている、そういったものに触発されて企画しました。

―常にアイデアは用意されていますか?
仕事場にホワイトボードがあって、アイデアが思いついたら書き込んでます。今朝見たら、いつ書いたのか分からないんですけど「外来種」っていうテーマが書いてあった。日本にいる外来種が羅列されてて。展示作品のアイデアメモなんですが。アメリカザリガニとか、ブラックバス、ブルーギルとか、外から日本に入ってきたものが、生態系をぶっ壊してサバイブして生き延びていくそのイメージを書き込んでました。

―ニューヨークに行った経験が本作につながりましたか?
そうですね。ニューヨークって会いたい人には必ず会える街だし、夢をかなえる場所みたいなイメージがあって。僕も僕なりにその中で気持ちが高ぶっていましたし、創作している人の生の姿を目撃できるので、日本人の自分がどうやって作品を作ろうか常に考えていて。前作の『美代子阿佐ヶ谷気分』もニューヨークで2回くらい上映したんですけど、おもしろがってもらえました。ニューヨークって独特の高揚感がありますよね。パワフルだし、競争社会だし。夕方にセントラルパークでマラソンをやってるんですよ。色んな人種が一列になって。その中でちょっとずつ、力尽きて脱落していくんです、疲れて。まさにこの街で生きていくには走り続けなきゃいけないんじゃないかと思いました。

―貝について詳しいですか?
貝についての図鑑とか資料は買いまくっていろいろ調べましたけど、「これはなに貝だよ!」とか言えるようにはまだなってないです。とにかく貝はおもしろいと思っています。動物を題材にした奇想天外な話が作れないかなと思っていて。映画の中に生物が出てくるのがすきなんですよ。その中で貝は、ロマンがあるなと。これがきっかけで貝の料理食べまくりましたね。

―最後に本作をこれから見る方へメッセージをお願いします
リリーさんにすごくいいことを言っていただいたのですが、「触らないと分からない映画だ」と。盲目の学者が暗闇の中に一筋の光を追い求めて歩いていくイメージがあり、視覚と聴覚を触発しながらも、異世界に誘いたいなと思います。見た人それぞれがいろんなストーリーを頭の中で作れるような工夫を随所に仕掛けているので、感性に響くようなものになればいいなと思っています。是非、劇場の大きなスクリーンで体感して欲しいです。

『シェル・コレクター』坪田義史監督 (2)

『シェル・コレクター』坪田義史監督 (3)

『シェル・コレクター』ポスター

TRAILER

DATA
映画『シェル・コレクター』は2016年2月27日(土)よりテアトル新宿、沖縄・桜坂劇場ほか全国で公開!

監督・編集:坪田義史
出演:リリー・フランキー、池松壮亮、橋本愛、普久原明、新垣正弘、寺島しのぶ
配給:ビターズ・エンド

(C)2016 Shell Collector LLC(USA)、『シェル・コレクター』製作委員会

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