『湯を沸かすほどの熱い愛』中野量太監督 単独インタビュー

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INTERVIEW

『湯を沸かすほどの熱い愛』

死にゆく母の熱い想いと、想像もつかない驚きのラストに涙と生きる力がほとばしる家族の愛の物語『湯を沸かすほどの熱い愛』でメガホンを取る中野量太監督にインタビューを行った。

―とても豪華なキャストですが、キャスティングするのに苦労はありましたか?
中野監督 すごくありがたいのですが、みなさん脚本を気に入って出演すると言ってくださいました。めちゃくちゃ苦労したということは実はなかったです。宮沢さんが決まってからは、他のキャストも順調に決まってくれた。みんな脚本を読んで出演したいと言ってくださった。僕もプロデューサーもこんなことになるとは全く思っていなかったです。

―監督自身が脚本を手掛けていますが、期間はどれくらいかかりましたか?
中野監督 根本になるアイディアは6年ほど前にありましたが、ミステリーみたいな感じで、全然違うものでした。警察が出てきたりしましたが、警察とか知らないし、嘘を書いているみたいで封印していました。『チチを撮りに』(2012)などを作って、新しい作品を撮ろうと思った時に、今の僕ならあの本を書き直せると思って大幅に書き直しました。書き直してからは1年くらいです。

―オダギリさん演じる幸野家の父・一浩は相当なダメ男だと思うのですが、オダギリさんが演じることで憎めない男になっています。オダギリさんをキャスティングした理由を教えてください。
中野監督 オダギリさんのよかったところは、オダギリさん自身が子供を持つ親なので、親としての温かみがあります。宮沢さんにも言えますが、親の役を親にやって欲しかったのです。あと、オダギリさんは二枚目ですが、三枚目のオダギリさんが好きで、この役をできるということが分かっていました。どのような役なのかは、脚本を読んでよく理解してくれていたと思います。僕は「かっこよくはならないでくださいね」と、初日に会ったときからひたすら言っていました。「でも憎めない人なんです」と話をしていたら、オダギリさんはよくわかってくれました。自分のなかに“一浩”を作って演じてくれたから、ダメなんだけど憎めない感じを出せたんだと思います。

―宮沢さんと娘役の杉咲花さん、伊東蒼さんが本当に仲よく見えます。現場の様子はいかがでしたか?
中野監督 僕のやり方では、本番以外にも関係性を持つことを大切にしています。親子なら親子の関係性、姉妹なら姉妹の関係性にちゃんと見えるように、事前に作業をしています。今回は一緒にお風呂掃除をやってもらいました。宮沢さんと娘役の二人と、(劇中の)銭湯に事前に行って、掃除の仕方を教えてもらいながら一緒に掃除をしました。その後でみんなでご飯を食べて、自分たちの家族について話し合ってもらいました。もうひとつは毎日メールをしてもらいました。二人と宮沢さんに「今日何があったか」をメールしてもらいました。宮沢さんはお忙しいですが「そこは必ずやってください」と言っていました。人と人が演じることなので、その子が愛しいとかの気持ちが出るんです。姉妹は(杉咲)花がひっぱってくれていました。本番じゃないときも妹の手を握っていてくれていた。関係性が必要だからとしつこく言っていたら理解してくれてやっていたので、そういうところがうまく映っていたと思います。

―宮沢さん演じる双葉は愛にあふれていました。監督自身のお母様と重ねた部分は?
中野監督 フィクションです(笑)フィクションですけど、ぼくは母子家庭で育ったので、母の愛で育っているのは根底にはあります。母は強くて家庭の中心だったので、この家(幸野家)も母が中心の家ですね。ただ、(監督自身の母親は)強い母ではありますけど、(劇中の)そのままの母ではありません(笑)

―杉咲さん演じる安澄のいじめの解決方法はとても印象的でしたが、なぜあの方法にしたのですか?
中野監督 安澄はあれしか思いつかなかったんです。お母ちゃんにはなれないけど、お母ちゃんみたいに強くなりたくて、あれしかできなかった。不器用だけど、ちょっとお母ちゃんみたいになりたいというのが形になった。お母ちゃんの遺伝子がちょっとだけあったと証明したかったんです。

―撮影中のエピソードなどありますか?
中野監督 みんな泣きながら撮っていました。感情移入しながらも、ぐっとこらえて撮っていたのがおもしろかった。僕もそうですし、カメラマンもそうです。そうやってみんなが撮りながら同じ気持ちになっていたので、これは成功するなと思いました。そんな気持ちの映画はお客さんに伝わるなと思った。みんな仲が良く、特に姉妹は仲良くやっていて、とても楽しい現場でした。オダギリさんは恥ずかしがりやで、昼休みにひとり離れていたので「ちゃんと混ざりなさい」って言いました。シャイだけどおもしろい方なので、なじんでいました。

―空の風景を入れていたのですが、登場人物の心を映し出しているのですか?
中野監督 そこまでは意識していないです。梅雨に撮影していたんですけど、いいときに晴れてくれるんです。たぶん映画の神様がそっちのほうがいいんじゃない、悲しいシーンは暗いほうがいいんじゃないってなったんですね。狙ってはいないです。晴れだったら晴れで撮るし、雨だったら雨で撮る。そんな余裕がないスケジュールでした。

―劇中に出てきた富士山がとてもきれいでしたが、あれは実際に撮影したものですか?
中野監督 聞きます?(笑)本当はあのままあそこにあるんです。あの日は曇っていたのですが・・・。晴れていたら、くっきりと見えたはずなんですけど・・・。

―撮影に使われた銭湯のことは知っていましたか?
中野監督 行ったことはないですが探していて見つけました。本当についていました。営業が終わっていたので自由に使わせてくれました。他のところとも交渉をしていたのですが、定休日の一日だけなど、時間が限られているから撮影が難しかったのです。ここは営業が終わっているので美術も自由にいじることができたし、汚れた目地を白く塗ったり、自動販売機を取っちゃったり、いろいろやりました。東京で一番古い銭湯だったので、その最後を撮れたことは、すごい縁だと思います。

―富士山の絵は元からあったものですか?
中野監督 ありました。数年前に亡くなった銭湯の絵を描く有名な絵師さんの遺作のようなものです。銭湯の絵は何年か経つと描き直してしまうので、撮れてよかったです。あそこは富士山じゃないといやですよね。

―中野監督は今までの作品も家族をテーマにしていましたが、家族へのこだわりはありますか?
中野監督 基本的に自分の中にあるもので映画を撮りたいです。嘘の感情を使いたくない。僕は母子家庭で育ったので、家族ってなんだろうという思いはずっとありました。もうそろそろ違うものを撮りたいですね。自分の中で嘘がなければ恋愛ものも撮りたいです。

―次回作の予定はありますか?
中野監督 動いてはいます。また家族なんですけどね(笑)

―最後に、これから見る方へメッセージをお願いします。
中野監督 富士山は本当にあそこにありますよ(笑)。きっと、その登場人物たちの気持ちを理解しながら、一緒に家族になった気持ちでやさしく見ることができるので、家族で見て欲しいです。家族で見て、親子で話して欲しいですし、子どもから大人まで見れる映画だと思っているのでみんなで見てほしいです。あとは衝撃のラストを、ドキドキワクワク期待して待っていてくれたらなと思います。

『湯を沸かすほどの熱い愛』中野量太監督 (2)

『湯を沸かすほどの熱い愛』中野量太監督 (3)

『湯を沸かすほどの熱い愛』ポスタービジュアル


DATA
映画『湯を沸かすほどの熱い愛』は2016年10月29日(土)より新宿バルト9ほか全国で公開!

脚本・監督:中野量太
出演:宮沢りえ、杉咲花、篠原ゆき子、駿河太郎、伊東蒼、松坂桃李、オダギリジョー
配給:クロックワークス

(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

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