『ジュピターズ・ムーン』コーネル・ムンドルッツォ監督 単独インタビュー

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INTERVIEW

カンヌが熱狂したSFエンターテインメント映画『ジュピターズ・ムーン』でメガホンを取るコーネル・ムンドルッツォ監督にインタビューを行った。

―SFっぽくないSF作品だと感じました。本作を思いついた経緯を教えてください。
監督 社会を題材にしたドラマでありながらSFとアクションの要素を持った作品にしたかったので、典型的なSF映画とは言えないと思います。もともとSFが好きなんです。13歳のころに読んだアレクサンドル・ベリャーエフ(ロシアのSF作家)の『Ariel』という飛ぶことができる少年の物語が強く心に残っており、そこから物語を作っていきました。“飛ぶことができることを自分が信じることができるのか”という物語で、信じる心を持っているのかをテーマにしている。信じる対象は神的な存在ではなく、信仰でもなくていいので、そこに浮遊する少年がいることが効果的なのかなと思います。

―本作では難民問題や宗教観が描かれていますが、あえてSF作品にそういった内容を取り入れた理由はなぜですか?
監督 “希望”を描きたかったのです。自分を犠牲にすることで何か解決できるんじゃないかという希望を込めました。移民難民の物語ではあるけれど、僕らにとっては寓話で、典型的な難民物語とは違うタイプの映画だと考えています。ハンガリーやヨーロッパの背景を知らなくても観ていただける映画だと思います。魂が迷子になっていて愛情なき日々を送っていて腐敗もしている主人公のシュテルン医師が、浮遊する少年と出会った。少年をどう思うかは人によって違い、人間だと思う人もいれば、天使か、スーパーマンかと思う人もいるかもしれない。彼に出会ったことで、シュテルンは犠牲を払い、よりよい人間になることができるという物語です。普遍的で、グローバルだと思うので、ヨーロッパにとどまる物語ではないと思います。犠牲はキリスト教の概念に近いと思うけど、今回はそう言ったものを恐れずに観ていただきたいです。

―今回CGをほとんど使わずに撮影していると聞きました。CGと特撮の使い分けはどのように行いましたか?
監督 全て基本的にカメラで撮ることを選択しました。コンセプトはシンプルなもので、役者にもカメラにも可能な限り自由を与えています。役者は吊られていて、カメラもステディカムを設置してワイヤーでつなげているので、役者と同じように動くようになっています。なるべく手持ち感を大切にして、地面にいる人間がザワザワしている様子を出したかったので地面に近いところで撮影もしています。浮遊シーンは垂直と平行の動きをワンテイクの中で見せることを考えました。難しかったのはその手法を考えることです。グリーンバックでスタジオで撮影してエフェクトを付けることは簡単だけど、今回の作品はそれではうまくいかないと思いました。ただ、エフェクトが嫌いなわけではなくて、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』や『ダンケルク』と同じくなるべく実際に撮影を行いました。90%は実際に撮影しています。CGはワイヤーや映り込んだスタッフを消すなどでしか使っていません。

―街中を浮遊するシーンも実際に撮影したのですか?
監督 そうなんです。実際にブダペストの街並みの上に吊って、背景に風景が広がっているところを高いところから撮影しました。合成では感じられないリアルな感じや、街並みの多層構造になっているところを映すことができるからです。VFXでやろうとするとお金もかかります。それならば半年かけて実際に撮る方法を模索したほうが予算を抑えられます。本作はハンガリー映画としては高額で350万ドルほどかかっていますが、その予算内でこれだけのアクションをやるためにはクリエイティビティにならざるを得なかったんです。

―カーチェイスシーンも視点が低くて迫力がありましたが、実際に撮影したのですか?
監督 はい、しました。カメラは追走する車の地上から7㎝のところに設置しました。予算がないので『ワイルド・スピード』みたいなことはできません。その中で(主人公を追う)ラズロが運転する車にカメラをつけました。「トムとジェリー」で言えばトムのほうです。実際に通りを閉鎖して、警官を50人くらい配置していただいて、スタントは40人くらい用意したので、コントロールできた状態が用意できました。夜中の24時から朝6時の撮影で2テイクしか撮れませんでした。

―本作で最も重点をおいたところはどこですか?
監督 映画作家として大切だったのは“奇跡を信じられるものにすること”です。映画として、信じる力、信じることがテーマとしてあるわけで、人間は変われるんだということを信じられるかどうかが大切です。本作に登場する医師や警部のように、人生先がないようなところに置かれた人も、変われると信じられるかが重要でした。多重層的な映画でもあるので、ヒエロニムス・ボス(1450~1516)というゴチャゴチャな絵を描く有名な画家がいるのですが、ちょっと距離を置いてみてみるとカオスを感じますが、近くに行くと細かいディテールが見えて、違う印象を得る絵なんです。まさに我々が感じる混沌をムードとして感じさせる映画にしたいと思いました。

―監督は舞台演出の経験もありますね。本作ではそのことが活かされていることはありますか?
監督 4年間演技の勉強をしていて、そのときに舞台演出の経験をしました。今もオペラや舞台の演出をしますが、自分は映像作家なので舞台演出家という認識はありません。ただし演劇から重要なレッスンを学びました。それは勇気を持つことです。映画と比べると演劇のほうがラジカルに色々と掘り下げているし、リスクのある物議を醸し出すようなテーマに果敢に挑戦しています。対して映画は保守的になっている。だからトピックとして、おもしろいと思うようなことは、ヨーロッパでは映画よりも演劇のほうに使われていると思います。とはいえ自分は映画作家なので大胆さをもって映画作りに挑みたいと思っています。

―監督の作品は非常に独特なイメージを受けます。影響を受けた人やモノはありますか?
監督 15~16歳の時から影響を受けたのがライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(ドイツの映画監督、1945~1982)です。同時にロシア映画にも影響を受けていてアレクセイ・ゲルマン(ロシアの映画監督、1938~2013)は大好きです。アメリカ映画の80年代終盤から、90年代初期のものも素晴らしいと思います。ファスビンダーは物語を正確に伝えることができて、メロドラマの名匠でもあります。僕自身メロドラマを作っているという自負があるのですが、誰にも指摘されたことはありません(笑)


STORY
本作は、空中浮遊の能力を持つ少年と彼を守ろうとする医師の逃亡を描いたSFエンターテインメント。人生に敗れた医師と不思議な力を持つ少年の命をかけた逃亡を、テロや難民問題を内包しながらも、圧倒的な映像表現でカーチェイスや美しい空中浮遊も惜しむことなく描き、ジャンルにとらわれない比類なきエンターテインメントへと昇華させた。メガホンを取るのは、『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』で世界中の映画祭を席巻したコーネル・ムンドルッツォ監督。


TRAILER

DATA
映画『ジュピターズ・ムーン』は2018年1月27日(土)より新宿バルト9ほか全国で公開!
監督:コーネル・ムンドルッツォ
出演:メラーブ・ニニッゼ、ギェルギ・ツセルハルミ、ゾンボル・ヤェーゲル、モーニカ・バルシャイ
配給:クロックワークス
2017©PROTON CINEMA – MATCH FACTORY PRODUCTIONS – KNM

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