『関ヶ原』原田眞人監督 単独インタビュー

INTERVIEW

誰もが知る“関ヶ原”の誰も知らない真実を描いた超大作スペクタクル・アクション映画『関ヶ原』でメガホンを取る原田眞人監督に単独インタビューを行った。

―石田三成役を岡田准一さんが演じたことでイメージが変わった人も多いと思います。キャスティングの経緯を教えてください。
監督 俗説としての石田三成の人間的な魅力に乏しいのは違うと思っていた。司馬遼太郎先生の原作でも、心中はうまく分析していた。頭脳の明晰さはあるけど、現実に彼は乗馬の達人であったし、それは合戦の最中で島津の陣営で説得したりするところも史実としてあるわけで、今まではないがしろにされてきた。今回は、身体能力と体のサイズと演技力を含めて岡田准一しかいないなと思い、最初に会った。そして彼が三成に惹かれていてやりたいと思っていたというのは大きかった。三成がイメージと完璧すぎるので家康は意表をつく形にしたいと思って、家康体型ではない役所広司さんに演技的な遊びをやってもらった。その二人のイメージができたらあとは楽だった。ヒロインは旬の(有村)架純ちゃんをなんとしてもいれたかったし、彼女に合わせてスケジュールを組んだ。全部で8週間ある撮影期間のうちの最初の3週間しか彼女は参加できなかったので、彼女のシーンも全部最初のほうで撮っていった。その3人は割と早くから決まっていた。島左近役の平(岳大)くんは、年齢的に若いということはあるけど、冒険はしたくて、お客さんが観たときに発見の喜びを味わってほしかった。それと小早川秀秋役の東出(昌大)くんは司馬遼太郎作品を深く読み込んで分析していた。そういう意味で完璧に収まるところに収まったという感じはしています。

―関ヶ原の合戦のシーンは特に迫力もありますが、苦労した点やこだわった点はどこですか?
監督 合戦は大変になるというのは分かっていたので、段階別に徐々にやっていった。最初はクランクインして5日目くらいで、三条河原の処刑のシーン。あのシーンのために架純ちゃんは何週間も殺陣をリハーサルした。いろんな条件があって一日で撮らなきゃいけなかったので、絵コンテ通りのショットをカバーできるかが難しかった。午前中にいきなり雨で2時間使えなかったけど、そのときに祭囃子(まつりばやし)が聞こえてきて、「あの鐘の音は何なの?」って聞いたら「400年前からある」と教えてくれた。それで、小早川秀秋の進軍のときの鐘に使った。2時間待ちの時にもプラスになる材料を広げることができたのはいい兆候で、映画がいい方向に行っているなと思った。2時間のロスにも関わらず、僕の中にも活気が出てきたし、それはマイナス思考ではなくて、そのための休みだったと思った。その後も天気が変わって、架純ちゃんが三成とぶつかるシーンは日没1分前の日が落ちていく最後の瞬間で時間との競争だった。それがうまくいったときに作品がうまくいくと思った。映画の神様が味方しているっていう感じがあった。8月21日にクランクインしたんだけど、10月の頭には関ヶ原の合戦の一番大事なシーンを琵琶湖の北の下古賀の旧採石場で撮った。6時間の戦いの間に石田の本陣で誰がどこで何をしていたかを一日かけてフルリハーサルして、4日間で撮った。そこが撮れたので、そこからは楽だった。準備と一番違ったのは、エキストラは一日最低でも400人集めろと言っていたんだけど、これがお金の面でも大変で「今日は200人でもいいですか?」ということもあった。やっているうちに分かったのが、合戦シーンでは『ラストサムライ』のようなハリウッド大作でも一日400人の鎧武者の衣裳はつけてない。実際にやってみたら甲冑を身に着けるのに大変なプロセスがあるので、一人30分くらいかかっちゃうから、逆算すると最大で250人だなということになった。足りない人数は後でCGで足すことになったけど、馬も一日最大で30頭までしか使えなくて、その30頭の馬も一度本番を撮ったら30分休ませないといけない。最終的に、馬が何十頭も登場しているように見えているけれど、背景のほうの馬はCGにしている。DVDで画面を止めて観ても分からないんじゃないかな。人数もCGでかなり足している。それが今の時代だからやっと撮れる関ケ原の合戦だなと思いますね。

―公開されてからの反響は耳に届きましたか?
監督 いろいろなものを聞いていますね。セリフが聞き取れないという意見もありましたが、年配の方も当然セリフは聞き取りづらかったと思うけど、そういうことは言わずに「あの世界に連れて行ってもらえて感動した」という反応もあった。『七人の侍』は、日本映画のNo.1の傑作だと思うけど、セリフが聞こえるかというと40%くらいは聞こえないと思う。『関ヶ原』でセリフが聞こえないという人が『七人の侍』を観たら恐らく80%くらいは聞こえないと思う。当時は録音技術が悪かったから、昔の人も当然そうだったわけで、身を乗り出すように観て、聞こえない部分は考えることで補っていた。確かに『関ヶ原』は意図して早口にしていたし、戦国ではこうしゃべるだろうと考えた。現代語にするわけにはいかないから、ある程度当時の言葉を入れた。一言聞こえないだけで否定するというような風潮がある中で200万人動員できたことは大健闘かなと思います。映画の面白さって考えてみることじゃないと思う。足りない部分を自分たちで補って、成長していく。聞こえないと否定的に思った人が、5年先、10年先にこの作品を観たときに感動すると思うし、それは人間的に成長していることだと思う。今まで僕が体験したことがなかったんだけど、この映画の(関係者向けの)初号試写で、出演者たちが「この作品に参加できてよかった」と、スタッフも含めて泣いた人が多かった。涙をボロボロ流して劇場から出てきた。岡田さんもそうだったし、みんながそうだった。その反応を見たときのインパクトの強さで、これはもういいやってなった。普段は評判とか、切り取ってスクラップにするんだけど、今回はほとんどやってない。あとは劇場で挨拶したり、質疑応答をして、生のお客さんの反応を確かめていくのは楽しかったですね。

―セリフが聞き取れないのは確かに思いましたが、映像を観ていれば理解をする楽しさもありますね。
監督 日本人の律義な性格というのもあって、セリフを全部理解しなきゃいけないんじゃないかと思ってしまう。「『関ヶ原』感動しました。でも最初の薩摩兵が出てきたときに何を言っているか分からなかったんですよ」って言われたこともある。これにはびっくりした。何言っているか分からないために出しているのに、そんなこともわかんないのかなと。僕は外国暮らしが長いから何を言っているか分からない国にずいぶん行っていた。その感覚が今の若い世代から失せちゃっているのかなと思う。それから映画には捨て台詞があって、雰囲気のためには聞かせるけど、理解しなくてもいいというのがこの映画にもある。そのシーンでは、何が分かって欲しいかというと、ケンカしていることだけ分かればいい。昔からそうだったけど言う場所がなかったのが、今はネットで言えちゃう。でも、この作品は映画の面白さが詰まっているので、それはDVDでストップモーションとして観てもらってもいいし、チャプターごとに観てもらってもいいし、そこに込められたロケ場所のすばらしさや衣裳のすばらしさ、いろんなテーマを変えて堪能できる作品だと思う。DVDの売れ行きが伸びていくことを期待していますね(笑)

―監督ご自身は西軍と東軍どちらにつきたいという思いでしたか?
監督 既に証明されちゃっているから、どちらかというのはないですけど、西軍について何とか戦わせようという努力はしたかったと思いますね。それが無駄に終わるとつらいなというのはあるので、何とも言えないですね。好きな武将は何人かいて、一番残念なのは立花宗茂が間に合わなかったこと。間に合っていたらどうだったのか。関ヶ原の合戦自体は考えても仕方がないというのは、ああいう形で毛利も島津も動かなかったので、それが幕末の幕府を倒す力になっているわけで、300年かかったけど歴史としてうまく流れはできているのかなという感じはする。自分が入ることで三成が勝てるなら入りたいけど、そうでないのであれば考えること自体が無駄かなと思います。司馬先生の原作にもあるけど、あの頃は裏切りという概念がなく、どうしたら一族が生きていけるのか、生き残りの美学が最優先されていたので、そこで三成は損してしまったなと。映画では全部描けなかったけど、伏見城の攻防戦も含めて、いろんなやるべきことはやっているので、それでも動けなかった人たちは彼らに問題があるので三成の問題ではないなと思っている。家康が、当然織田信長の次は家康だと思っていたら、秀吉が出てきてさらっていっちゃったという無念さがあるのはみんなわかっているわけだから、家康がむしろそれまで天下を取れなかったことが当時の人は歴史がゆがんでいるという感じがしていたのかもしれないなという気持ちはありますね。

『関ヶ原』豪華版

STORY
司馬遼太郎によるベストセラーを原作に、戦国史上最大の合戦「関ヶ原の戦い」を、原田眞人監督が日本映画史上初めての挑戦として真正面から描く。“純粋すぎる武将”石田三成役を岡田准一、徳川家康役を役所広司が演じるほか、有村架純が初の本格時代劇出演を果たし、平岳大、東出昌大、北村有起哉、伊藤歩、音尾琢真、和田正人、滝藤賢一、キムラ緑子、中越典子、壇蜜、 松山ケンイチ、西岡德馬らが集結。日本の未来を決した、わずか6時間の戦い。誰もが知る「関ヶ原」の誰も知らない真実を描く―。


DATA
映画『関ヶ原』ブルーレイ&DVDは2018年2月7日(水)発売!
■Blu-ray 豪華版 6,800円(税抜)
■DVD 豪華版 5,800円(税抜)
■Blu-ray 通常版 4,800円(税抜)
■DVD 通常版 3,800円(税抜)
※Blu-ray&DVD同時レンタル開始
監督・脚本:原田眞人
出演:岡田准一、有村架純、平岳大、東出昌大/役所広司、北村有起哉、伊藤歩、中嶋しゅう、音尾琢真、松角洋平、和田正人、キムラ緑子、滝藤賢一、大場泰正、中越典子、壇蜜、西岡德馬、松山ケンイチ
発売元:アスミック・エース
販売元:東宝
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