『安魂』北原里英 インタビュー

INTERVIEW

失った時間を誰と生きる―日中合作で描く心の再生の物語『安魂』で日本人留学生・星崎沙紀役を演じた北原里英にインタビューを行った。

日中合作の本作に、唯一の日本人キャストとして出演していらっしゃいます。出演の経緯をお聞かせいただけますか?

北原 「1か月後に中国に行きます」という結構急なお話でした。準備期間も短い上に、セリフも全編中国語。中国語には触れたことがなかったので「大丈夫かな」という思いはあったんですけど、元々追い込まれるのが好きなので、“すごいチャレンジになるな”と思って1か月間自分なりに勉強してから行きました。

準備期間の1か月には、なにから始めましたか?

北原 まずはすぐに近所の中国語教室を探しました。「最寄駅 中国語教室」で検索してパッと出てきたところに行って、すぐに入会して、そこで基礎から学びました。同時進行でセリフを覚えていったので、教室に台本を持って行って、事情を説明してセリフ合わせをやってもらったりもしました。

日本語とは違う発音も多いのでなかなか覚えるというのも難しいですよね。

北原 日本語にはないような発音は難しいですよね。しかも、先生に「今のOK!」って言われても、今のもうできない(笑)何度も挫けそうになったんですけど、少しでも立ち止まっていたら間に合わないくらい時間がなかったので、逆にそれはよかったです。なんとかセリフだけは完璧にしていきたいという思いでした。映画の撮影が終わってからもしばらく通っていたんです。中国に実際2週間いたら耳が慣れていたりして。実際に日常会話で使うものが学べていたので、その上で同時にテキストで基礎も学んだら、すごく上達しました。撮影前にこれくらい知ってから行ったらもっと違っていたなと思いました。

見ている側としては全然そんな感じはしなくて、むしろ流暢な感じに聞こえました。

北原 私は自分のセリフに日本語の字幕がついてるのがおもしろかったです(笑)新鮮でした。

日本語のセリフも少しだけありますよね。

北原 あそこが一番下手で笑っちゃいました(笑)

全編中国語なので、逆に日本語に違和感があるんですかね(笑)

北原 中国語のほうが上手じゃないって思っちゃいました(笑)もしかしたら自分の中でも、日本語だからって練習不足だったのかもしれない。いつも通りだからいけるって思っちゃいました(笑)

監督は日向寺太郎監督ですが、他にも日本人のスタッフもいましたか?

北原 日本のスタッフは6人だけいて、各部署のチーフのようなポジションの方が日本人の方でした。カメラマンは大御所の方で、みんなから親しまれていました。撮影部のみんなは中国の若者たちだったんですけど、その子たちは本当に敬ってるのが分かるくらいそのカメラマンさんを好きだったし尊敬していたので、日本ではあまり見ないような光景でほっこりしました。

スタッフ同士のチームワークはよかったんですね。

北原 日中スタッフの絡みがおもしろかったです。照明部の方が日本人の女性だったんですけど、その下についている中国の若者との絡みがすごくおもしろくて。教えてもらった言葉をお互い繰り返すんです。日本人のスタッフさんがなにかしてもらったら「謝謝」って言って、中国のスタッフさんは「ありがと」って言うんです(笑)お互い相手の言葉で伝えようとしたり、「こういうときはなんていうの?」って教え合ったりしていて素敵でした。国境がなくなったらいいのにって思うくらい温かい現場でした。

キャスト間ではいかがでしたか?

北原 みなさん本当に優しかったです。キャストの皆さんとは基本的に英語で話して…異文化コミュニケーションって感じでした(笑)英語だったら少しは分かるので。あと日本のアニメが中国ではすごく人気でだいたいアニメの話をしました。「『ONE PIECE』だと誰が好き?」とか。一つだけ後悔があって、この撮影の時に私『鬼滅の刃』を見ていなかったんですけど中国では流行の全盛期だったんですよ。音声さんとか、本番の合間にスマホで見てるくらい流行っていて。ずっと「水の呼吸」って言ってたんです(笑)でも私が分からなくて…。見てから行けばよかった!って後悔しています。でも、ポケモンの話も共通だし、『ONE PIECE』とか『NARUTO』も人気でした。あとお父さん、お母さん役のキャストさんたちも優しくて。お父さん役のウェイ・ツーさんはウイスキーを集めているらしくて、日本のお酒がすごい好きだというお話をしてくれました。私は愛知県出身なんですけど、お母さん役のチェン・ジンさんは名古屋に仕事で行ったことがあるらしくて、そういったお話をしました。通訳さんを通してとか、身振り手振りなどでなんとか(笑)。若者2人は年が近かったので言葉よりも雰囲気でコミュニケーションを取っていました。本当に仲良くしてくれました。今まで言葉が通じないと友達ができないと思っていたんです。AKBに所属していた時も姉妹グループがあるジャカルタに行ったりしても他のメンバーほど仲良くなれないことに寂しさを覚えたり…。言葉が通じないことに苦手意識があったんですけど、今回は初めて言葉が通じなくても友達になれるんだと思いました。

今回は一人だというのもいい影響があったかもしれないですね。

北原 それはよかったと思います。もう一人日本人がいたとしたらそこに頼っちゃっていたし、比べちゃったかもしれないので一人でよかったって思います。

一緒に演技をしてみていかがでしたか?

北原 みなさん本当に技術レベルが高くて、言葉が分からなくても気持ちが伝わってきました。みんなが集合するシーンで、初めてちゃんとお母さんと一緒に演技をしたんですけど、素晴らしすぎて…。テストの時のお芝居からとてもすごくて衝撃を受けました。言葉の壁を超えるんだなと感じました。

感覚で分かる感じですか?

北原 そうです。技術だけではないと思うんですけど、全員からすごく刺激を受けました。ほとんどがアフレコだったんですけど、セリフを録る時にもわんわん泣くし、中国ではそれが当たり前なのかもしれないけど、私はマイクを目の前に置いていきなり泣けないので(笑)一瞬で泣くところまで感情をもっていっていたから本当にすごいと…衝撃を受けることがたくさんありました。

そんな中で自然に入り込んでいましたよね。

北原 日中合作っていうけど全編中国語なんですよね(笑)セリフの多さにビビりました(笑)でも、やっぱり日本人スタッフさんは心の支えになっていました。分かる言葉をしゃべっているのは心強かったです。嬉しかったのは、通訳さんのほかに日本語がペラペラの中国人のメイキングを担当している方がいたんです。その子にも通訳を頼ったりしていたんですけど、その子がなんとAKB48が好きで、みゃお(宮崎美穂)のファンだったんです。しかも日本語は『AKBINGO!』で学んだって言っていて(笑)「あなたは日本語の先生です」って言われました(笑)みゃおは同期で仲がいいからすごい嬉しかったし、もしかしたら知らないだけでこんな風に異国の地に“きたりえ推し”もいるかもしれないって思ったら嬉しかったですね。他にも日本のアニメで勉強している方もいて嬉しかったです。

約2週間の撮影はガッツリ撮影でしたか?

北原 休みもちゃんとあって、お出かけもできて楽しかったです。「ミレニアムシティパーク」という広大な土地で中国の歴史を学べるアミューズメントパークがあって、いろんなショーをやってるんです。小さな小屋でやっているショーから、広場で馬を使ったショーまで、中国の歴史を学べるところで、とても楽しかったです。馬がすごかったんです!本物の馬に乗って戦争を再現してるんですけど、殺陣もすごいし、全力で走る馬の上に立ったりして、アクロバットがすごかったです。

他にもお出かけはしましたか?

北原 ご飯を食べに行ったりもできたのでいろいろな思い出があります。ショッピングモールに行って通訳さんとゲームセンターで遊んだり(笑)撮影期間を振り返ってみると楽しかった思い出ばかりです!

逆に大変なことは?

北原 泣いた日もありましたし、つらかったこともあったんですけど全部が本当にいい経験というか、ここでしか味わえない経験でした。この映画を通してとても視野が広がったので必要な経験だったと思います。

視野が広がったというのは具体的には?

北原 今まで海外に興味がなかったんです。日本が好きだし、邦画を好んで観るし、英語も得意じゃないからハリウッド映画に出たい!とか思ったこともなかったです。海外で仕事をするという概念がなかったんです。だけど、今回初めて中国に行って別の国の言葉で、その国の人とお芝居をしたら、たくさんカルチャーショックを受けて、楽しかったし、日本のことしか見えてなかった視野の狭さを痛感して。世界ってこんなに広いんだと思いました。今まで語学を学んだことがほとんどなかったので、語学を学ぶ楽しさがわかって、それぞれの国で現場の環境も違うので、もっと他の世界も見てみたい!と興味を持ちました。

1か月の準備でこれだけ成し遂げているので、英語とかもいけるのでは?

北原 発音が下手なんですよ…英語自体は得意で、ECCに通っていた当時一番優秀でした、当時は(笑)でも発音がカタカナ英語でこれを仕事にはできないなと言う思いがあったので興味が持てなかったんです。でも海外に行くことはAKBの時も海外担当って自分でも言ってるくらい海外のお仕事にはほとんど参加していました。異国の地の人と触れ合うことが好きだったのでその感覚を思い出して、自分は明るいほうだし、恐れないタイプだから口に出すことをしていこうかなと思います。中国語教室に通っていた時も「あなたはビビらずに言うから向いてるよ」って言っていただきましたので、その性格を活かしたいなと思っていて、今年の目標は改めて中国語を勉強しようと思っています。

せっかくなのでまた別の作品でも活かしたいですね。

北原 また中国に行けたらいいなと思っています。

現場の環境も違うと先ほどおっしゃっていましたが、どういった違いを感じましたか?

北原 いっぱいありました。スタッフ間の絆があるという部分は先ほども言いましたが、昼休憩で再開の時間を決めないというのんびりした部分があって。日本だと撮影再開何分後とか決めることが多いんですけど、お昼ご飯を食べ終わってのんびりしていたら「あ、やってる!」みたいな感じです(笑)撮影してるから行かなきゃみたいな感じでゆるゆると始まったりしました(笑)あと撮影の合間に肉まん食べてたり、昼休憩の間に売店行ってビール飲んでいるスタッフさんもいて、最初は「え?今?」って思ったんですけどだんだんおもしろくなってきちゃって、こういうものなんだと受け入れたら楽しくなりました。

【写真・文/編集部】

STORY
社会的名誉も地位も手に入れた著名な作家の唐大道。彼は自ら選んだ道こそが最も正しい道だと信じて疑わない独善的な人間であった。それは、愛する息子・英健に対しても同じで、息子の幸せの為だと恋人の張爽が農村出身という理由だけで別れさせた。しかし、その絶対的な信念は、英健が29歳の若さでこの世を去ったとき崩れた。「父さんが好きなのは、自分の心の中の僕なんだ」という言葉を遺した英健。息子はどんな生き方を望んでいたのか…。まだ近くにいるはずだと様々な本を読みあさり息子の魂を探した。そんな中、英健と瓜二つの劉力宏と出逢い、息子の姿を重ね度々彼のもとを訪れる大道。妻の瑞英は大道を制止するが、彼と会うことを止めることはできなかった。しかし、息子にもう一度会いたいと願う強い気持ちはひとつの奇跡を起こすことに―。


TRAILER

DATA
『安魂』は2022年1月15日(土)より岩波ホールにて2週間特別先行上映ほか全国で順次公開!
監督:日向寺太郎
出演:ウェイ・ツー、チアン・ユー、ルアン・レイイン、北原里英、ジャン・リー、シャン・カンチョウ、サイ・ショウイ、ホウ・トウカイ/チェン・ジン
配給:パル企画
©2021「安魂」製作委員会

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