「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022」長谷川敏行プログラミング・ディレクター インタビュー

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INTERVIEW

7月16日(土)より開催されるSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022の長谷川敏行プログラミング・ディレクターにインタビューを行った。

今年は3年ぶりにスクリーン上映となります。昨年はオンラインでの2年目の開催でしたが反響はいかがでしたか?

長谷川 昨年もオンライン配信とスクリーン上映の両方ができるように準備を進めていましたが、開催の判断をしなければいけない7月ごろにコロナの感染者数が多くなってしまい、このような判断になりました。オンライン配信の1年目だった前年に比べて、上映作品数は同じでしたが、1年目よりも視聴者数が増えており、浸透してきたと感じました。北海道や沖縄からの視聴者もいたので、この映画祭を知ってもらうという面ではオンラインはいい面がたくさんありました。

ただ、出品した作品の監督がほかの映画関係者と出会う場が映画祭としては重要だと思うので、オンライン配信だとそういった場を提供することができません。映画祭は本来そこが大切だと思うので、リアルでの上映が重要だと思っています。今年も両方できるように準備を進めていたので、“両方でやりましょう”ということになりました。今後どうするかは今年の状況をみてからになるかもしれません。観客が劇場での上映よりもオンラインでの配信を選ぶこと方が多いかもしれないですし、結果を見てみないと分からないと思っています。「二兎を追うもの一兎を得ず」という結果になってしまう可能性もありますし(笑)

出品する監督からは、オンライン上映への理解は高まっていますか?

長谷川 海外の作品は、商売として作品を売る部分もあるので、オンライン配信がいいかというのはコロナの状況にもよるところがあります。一昨年はまだオンラインに慣れていなかったので「オンラインではだめです」ということが多かったですが、昨年は比較的理解を得ていて、世界中でオンラインで映画祭が実施されていたのもあると思います。今年は特にヨーロッパでは劇場での上映が戻ってきているので、オンラインでやりたいと言ったら多少悩まれるところはありましたけど、2年にわたってオンライン配信で実施しているという実績があるので、信頼をして出品していただいていると思います。

今年は国際コンペティションにノミネートされた10作品中で5作品の製作国にフランスが入っています。多いという印象がありましたが、応募国に偏りはありましたか?

長谷川 偏りはあまりなかったと思います。一次審査員がある程度を選んでいますが、そこに残っていたのがフランス映画が多かったのもあります。実際に作品を見てみると、フランスが製作した映画は、しっかりとした出来の作品が多かったです。これはコロナ禍で当初の予定通りにお金が集まらないことで予算が小さくなった作品が多くある中で、国の文化予算がきちんとある中で作られているフランスの映画はそこまで大きな影響を受けなかったのではないかという印象がありました。

国際コンペティション

一部の作品を選ぶのは難しいかと思いますが、ノミネート作品の中で特におすすめ作品などはありますか?

長谷川 もちろんすべてと言いたいところですけど、『UTAMA~私たちの家~』は今年のサンダンス映画祭でグランプリを獲っている作品で、ボリビアの映画を日本で見ていただく機会はあまりないと思います。富士山よりも高い標高に住んでいらっしゃる方のお話で、そういった環境の中で生きていく崇高さを感じる作品です。これだけ聞くとアート映画のように見られるかもしれませんが、全くそういうことはなくて、我々が共感できる部分もあり、普遍性も兼ね備えている力強い映画だと思います。

映画祭の映画はヨーロッパ映画が中心になりがちなんですけど、今回はアメリカの映画とヨルダンの映画も見どころです。特に『クイーン・オブ・グローリー』は楽しめる映画です。自分自身を見つめ直す、アイデンティティに触れた楽しいコメディでありながら奥深さもあります。監督で主演も務めているナナ・メンサーさんは、女優としても注目の女優さんで、この映画は脚本もおもしろいと思います。

個人的におすすめしたいのが日本映画の『とおいらいめい』で、劇場で体験していただきたい美しい映画です。出演する髙石あかりさんもすごい女優さんだと思います。この映画は舞台が原作で、その舞台の作・演出を担当しているのは、映画版である本作の撮影監督を務め、2020年にこの映画祭で上映した『あらののはて』で監督を務めた長谷川朋史さんです。2時間半、浸っていただく気持ちよさを感じていただきたいです。

普段、映画祭で映画を見ない方に見やすいおすすめする映画はありますか?

長谷川 おもしろいと思うのは『ワイルド・メン』です。都会で暮らしていた男性が一度現代社会での生活を捨て、自分の人生どうしようと考えて森の中で社会と断絶して暮らし始めるんですけど、事件に巻き込まれた男が訪れて2人で逃げるというバディムービーです。現代社会をブラックユーモアで笑い飛ばす作品で、クライムバディムービーのエンターテインメント性を持ち、自分自身が生きている社会を振り返るきっかけにもなるクレバーな映画です。

『マグネティック・ビート』はフランス国内で評価が高い映画です。今年のセザール賞で新人監督賞を獲っています。いまヨーロッパでは80年代を舞台にした青春ドラマが流行っているようで、その先駆けの1本にもなると思います。少し前の時代を描くクラシカルさがあって、青春映画として爽やかでいい映画だと思います。

今年のノミネート作品で注目の俳優はいますか?

長谷川 今年のベルリン国際映画祭ジェネレーションKplus部門で作品賞に当たるクリスタル・ベア賞を受賞した『コメディ・クイーン』の主人公の女の子を演じているシーグリッド・ヨンソンさんは、お母さんがやっていたことと違うことをやろうとするために髪の毛を剃るシーンがあるんですけど、映画の中で実際に髪の毛を剃られているのに驚きます。大きな喪失を経た女の子のお話ですが、彼女の魅力で悲しみもあたたかく感じられる、優しい気持ちになれるのはシーグリッド・ヨンソンさんの魅力だと思います。

女優さんの力で一本出来ると思ったのが『彼女の生きる道』です。ロール・カラミーさんはこの作品で今年のセザール賞にノミネートされたんですけど、去年は別の作品で受賞されています。娼婦という役柄で、とにかく体当たりな演技を見ることができます。母親の必死さから息子への崇高な愛が 見えてきます。長編映画監督デビュー作品なんですけど、短編作品などは作っていますが、きちんと作られている、力作だと思える映画です。

国内コンペティション(長編部門)

国内コンペティションには6作品がノミネートされています。

長谷川 去年と同じ本数ですが、国際コンペティションにも国内作品が1本ノミネートされているので、国内作品は長編が7本、短編は8本が上映されます。

今年の長編部門の作品は個性が突き抜けている感じがしていて、同じコンペティションの中で選ぶのにビックリしてしまうくらいタイプが違い過ぎる作品が揃っています。これを審査員がどういう判断をするのかが楽しみです。非常に自信があるラインナップです。

短編もクオリティが高い作品が揃っています。アニメーションや外国撮影の作品もありますし、国内コンペティションではありますが国際色が豊かな作品もあります。

国内コンペティション(短編部門)

堀切健太さん(広報・宣伝)は今回のノミネート作品についてはいかがですか?

堀切 国内コンペの作品が年々国際色豊かになっていると感じます。日本に住んでいる外国出身の監督も増えていますし、日本の監督が外国で撮影することもあってそれはいいことだと思います。国内コンペティションという枠組みができたのは2018年でしたが、その時にはあまり予想していなかったことではあります。

今年コンペに凱旋監督が2人いらっしゃって、『とおいらいめい』の大橋隆行監督は2014年に短編作品で最優秀作品賞を獲っていて、今回は長編で初ノミネートされています。『命の満ち欠け』の岸建太朗監督は、撮影監督として活躍されていますが、2010年に『未来の記録』という長編デビュー作でノミネートされ、「SKIPシティ Dシネマ プロジェクト」の第1弾に選ばれています。今回は12年ぶりの長編作品で2度目のノミネートです。この映画祭の応募は3本目までの監督なので、同じ監督の作品が入り続けることはないんですけど、こういった形で新しい作品で戻ってくれるのは映画祭としては嬉しいことです。

長谷川 その流れでの特集上映(「What's New~飛翔する監督たち~」)でもあります。過去にノミネートされた監督たちが、自分の表現を映画界で見つけていっていると感じられ、かつ今年から来年にかけて公開される作品を上映できるのは嬉しいです。今まではテーマに沿って過去の作品を集めてきて上映することが多かったんですけど、今年は劇場上映ということもあり、世界のどこよりも先駆けて上映できることはよかったと思います。

特集上映の企画は今後も行っていくんですか?

長谷川 過去にノミネートされた監督が新作を作るタイミングもあるので、必ず毎年やっていこうというものはありませんが、この映画祭を経由してステップアップしていく監督を追いかけていきたい気持ちはあるので、機会があれば上映させていただきたいとお願いすることはあると思います。お披露目の場としてここを選ぶことがメリットだと感じて出していただけたらありがたいです。

今年は舞台挨拶も予定されていて、映画祭ならではの盛り上がりを見ることができそうです。

長谷川 ヨーロッパから日本に来ることがハードルがあると感じていて、すべての作品でゲストが登壇することは難しいという状況ですが、少しでも多くのゲストを呼びたく準備しています。2年間、外国のゲストどころか日本のゲストを呼ぶこともなかったので、ようやく国際映画祭と言えるイベントに出来るんじゃないかと思っています。来年はさらに多くのゲストを呼べるようにしたいと思っています。

オンライン配信とスクリーン上映のハイブリッドですが、ゲストの話を聞くことができるのはスクリーン上映で見るメリットですね。

長谷川 そこは強調して言いたいです。映画祭はワクワクを感じるものでもあると思うので、もちろんオンラインを否定するわけではないのですが、現地に行ったからこそ感じられる高揚感を大切にしたいです。

【写真・文/編集部】

STORY
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭は、“若手映像クリエイターの登竜門”として、映画界の未来を担う新たな才能の発掘を目的に2004年より毎年開催されてきた。第19回となる今回は、2019年以来となるスクリーン上映が行われるほか、昨年と一昨年に引き続き、オンライン配信も合わせて行われる。会期はスクリーン上映が7月16日(土)~24日(日)、オンライン配信が7月21日(木)~27日(水)に開催される。


TRAILER

DATA
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022は[スクリーン上映]2022年7月16日(土)~7月24日(日)にSKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ 映像ホール、多目的ホール(埼玉県川口市)、メディアセブン(埼玉県川口市)ほかで開催、[オンライン配信]7月21日(木)~7月27日(水)に配信!
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