『ぜんぶ、ボクのせい』川島鈴遥 インタビュー

INTERVIEW

『ぜんぶ、ボクのせい』で、誰にも言えない苦しみを抱えながら優太(白鳥晴都)に優しく接する杉村詩織役を演じた川島鈴遥にインタビューを行った。

オリジナル作品ですが、役作りはどのように行いましたか?

川島 監督と役についてはあまり話していなくて、現場で指示を受けて変えていくという手法でした。ただ、最初のオーディションの時から、私が考える詩織像と監督が考える詩織像が近かったので、そこは安心感を持って、私も監督に対して信頼をして、監督も信頼してくださったんじゃないかと思います。とても演じやすかったです。

セリフはなくても、心の中で思うことはかなり深いものがあるという役どころだと思いますが、その部分もご自身で考えることが多かったですか?

川島 いろいろと考えていきました。ただ、土台作りは行っていったんですけど、演じているときは普通の女の子でいようと心掛けていました。優太(白鳥晴都)に対しても、おっちゃんに対しても、明るい女の子の中で苦しさが垣間見れたらいいなと思っていたので、心の中の苦しさを感じていただけたのなら嬉しいです。

オダギリジョーさんは、『ある船頭の話』では監督と出演者として、今回は共演者としてご一緒でしたが、いかがでしたか?

川島 『ある船頭の話』の時は監督としてのオダギリさんだったので、緊張感はもちろんありました。オダギリさん自身もいっぱいいっぱいだったとお聞きして、そういう意味では近づきにくいオーラもありましたが、今回は役者としてなので、監督のときよりもやわらかい雰囲気で、ロケバスなどでもお話をさせていただいて、距離が縮まった気がしました。

川島さんが想像した “(オダギリさん演じる)おっちゃん像が違った”というのは、そういったイメージもあったからですか?

川島 おっちゃんと詩織の関係は、脚本を読んでいるだけだと分からない部分もあって。どれくらい仲良くて、どれくらいツッコみあう関係性なのかなというのは頭の中で考えるしかなかったので、現場に行って、オダギリさんがおもしろさも兼ね備えたちょっと突き放すような、でもその中に優しさがある“おっちゃん”を演じて、こんなおっちゃんなんだとビックリしました。そこにどう合わせていこうかというのは、3人で焚火を囲むシーンでいろいろと変わった気がします。そのシーンで関係性が作れたのは大きかったと思います。

3人でいるシーンと、家でのシーンの心情の違いが表現されていてとても素敵でした。

川島 家は本来は安心する場所だと思いますが、詩織にとっては安心する場所ではなくて、優太にも通ずる部分があると思うんですけど、まだ大人になりたくないのに、周りが大人にさせてくるという部分がメッセージ性がすごくあると思います。

白鳥晴都さんとは、撮影現場でお話はされましたか?

川島 役についてはあまり話さずに、私たち自身が仲良くなるという部分を大切にしていました。どのように話しかけようか、表情はどうしようかと考えてはいたのですが、晴都くんがそのまま優太だったので、そこはあまり意識せずにありのままをカメラを通して見せることができたと思います。

アドリブを交えて演技していたそうですね。

川島 基本的には台本に忠実なんですけど、どう自然に会話を持っていくかをオダギリさんとお話して、現場でやってみて変えることもありました。監督からも「オダギリさんから来たことに対して、セリフに関係なく思ったことを返しちゃっていいから」と言われて、それはそれでプレッシャーでしたけど(笑)「魚食べるか」とか「じゃパンあげないから」というのもアドリブで、緊張しながらもその場の雰囲気を見てやりとりができたことが私の中ですごく嬉しくて、勉強になると思いながらやっていました。

あのシーンは関係性がうまく表れていますよね。

川島 とっさに生まれたセリフだったんですけど、出来上がったものを見て、詩織とおっちゃんは仲がいいなと思いました。詩織とおっちゃんはこういう関係性なんだとちょっと腑に落ちて安心しました。

オダギリさんとの友情を自然に描く難しさはありませんでしたか?

川島 詩織にしたらおっちゃんは、自由に生きていてうらやましいと思っている師匠で、私自身もオダギリさんは演技のメソッドを教えていただいたり、いろいろとお世話になっていて俳優としても師匠なので、そのままの関係性が出ていると思います。オーディションの時はおっちゃんが誰か分からずに、何日か後にオダギリさんだとお聞きしました。もちろん緊張はしましたけど安心できるなと、関係性がそのままなので、役と実生活がそのままなので本当にやりやすい環境でありがたかったです。

そのオーディションでは歌を歌ったそうですね。

川島 歌うシーンがあるので“オーディションでも歌ってもらうと思います”というのは聞いていたんですけど、楽曲が何かは直前まで知らされていなくて。もともと歌うのが好きで、私は力強く歌ってしまうんですけど、詩織はきっと力強く歌う子じゃないなと思って、そこは意識しました。歌手を目指してはいるけど、実際に歌手になれるほどの歌唱力はないんだろうなといろいろと考えて、オーディションでも優しく、誰かに微笑んでいるように歌うことを心掛けていました。絶対に詩織は私にしか演じられないという強い自信を持ってオーディションに挑んだので、それが功を奏したというわけじゃないですけど、選んでいただいてよかったです。

本当に歌声がきれいで、透き通っている声が素敵でした。

川島 歌は本当に好きで、お芝居と歌が私の中で活力になっている気がします。

普段好きな曲とか、がんばりたいときに聞く曲はありますか?

川島 『ある船頭の話』でヒロインをやらせていただいた時に、音楽をかけてアプローチをかけていたんですけど、その時にかけていたのがベートーベンの「月光」でした。初心を思い出す曲なので、落ち込んだり、がんばりたいと思うときに自分を奮い立たせるためによく聞きます。本当に落ち着くので、気が付かないうちに大切な曲になっていました。

本作で特にお気に入りのポイントはありますか?

川島 優太と一緒に朝を迎えて、朝日が昇るシーンがあるんですけど、どんなに辛いことがあっても明日はやってくるし、がんばっていかないといけない、考えていかないといけないという思いがして、客観的に見てとても好きなシーンです。

【写真・文/編集部】

STORY
自主制作映画『Noise ノイズ』で世界中の映画祭を席巻した駿才・松本優作監督最新作。本作では日本の社会のリアルを見つめながら、孤独を抱えた3人の絆、そして1人の少年の成長を鮮烈に描き切る。主演を務めるのは、オーディションで選ばれた新人の白鳥晴都。瀬々敬久監督映画『とんび』で、スクリーンデビューを果たし、本作でも堂々とした瑞々しさ溢れる演技で存在感を発揮。ヒロインを演じる川島鈴遥はオダギリジョー監督『ある船頭の話』でヒロインに抜擢され、高崎映画祭最優秀新人女優賞を受賞した。若手2人を支えるのはオダギリジョー。本作では主人公が海辺で出会う軽トラで暮らすホームレスの役を自由自在に演じ切る。


TRAILER

DATA
『ぜんぶ、ボクのせい』は2022年8月11日(木・祝)より新宿武蔵野館ほか全国で順次公開!
監督・脚本:松本優作
出演:白鳥晴都、川島鈴遥、松本まりか、若葉竜也、仲野太賀、片岡礼子、木竜麻生、駿河太郎/オダギリジョー
配給:ビターズ・エンド
© 2022『ぜんぶ、ボクのせい』製作委員会

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