『そばかす』伊藤万理華 インタビュー

INTERVIEW

映画『そばかす』で、主人公・佳純(三浦透子)の妹・篠原睦美役を演じた伊藤万理華にインタビューを行った。

初めに、本作のオファーを受けた時のお気持ちをお聞かせいただけますか?

伊藤 このお話が来る前に(本作の監督を務める)玉田(真也)さんの舞台を観劇していたので映画のお話をいただき素直に嬉しかったです。センシティブな内容ですが、今の時代だから救われる人はいるだろうと思いましたし、実際に私が初号試写を観て救われたので、この映画に関われて本当に嬉しかったです。

ご自身の中でこだわったところはありますか?

伊藤 こだわったところは逆になくて。妊婦だからといって無理に作りこむこともないなと思いました。ただ方言があるからそこの自然さと実家でくつろいでる感じ、子供でいる状態というのは出せたらという気持ちでした。

伊藤さんが演じた睦美はどのような役だと考えて演じましたか?

伊藤 旦那さんがいて子供がいる、いわゆる普通の人です。姉もそうですが他のキャラクターとの対比になるので作品を伝えるために必要な存在なのかなと映画を客観的に観た時に思いました。演じているときは自分が妊婦役として成立できているのかが解らず必死だったので、そこまでは考えられていませんでした。ただそういう必要な役としてあの場にいられたのはよかったです。

初めて演じた妊婦役は大変でしたか?

伊藤 実際の重さにして演じたのですが、想像でしかなくて悔しさはありました。ただ、形だけでも本能的にお腹を守りたい気持ちが湧いてきたので、それは女性の本能なのかなと思って演じていました。

役作りについてはご自身からアイデアを出す部分もありましたか?

伊藤 意見をした、という記憶はありませんが、覚えていないくらい自然に現場に入って自然に演じていました。玉田さんが現場の空気を保ってくださりキャストのみなさんもスタッフのみなさんも、自分が演じやすいように空気を作ってくださいました。映画の空気感そのままです。優しい空気感というか、誰も否定しないあの空気感があるからこそできたんだと思いました。和やかで穏やかでした。

共演者とお話もされたんですか?

伊藤 坂井さんとは3年ぶりだったので、映画で再会できてすごく嬉しかったです。舞台でご一緒させていただいた当時からすごくよくしてくださっていたのでそういう方がお母さん役というのは嬉しかったです。

三浦透子さんが演じる佳純は恋愛感情がないというキャラクターですが、どのように感じましたか?

伊藤 今の時代は多様性が言葉になりすぎていて、実際に肯定されているのかといったら問題が解決している印象はなくて。問題の解決になってほしいというわけではありませんが、みんながこのアセクシャルというジャンルがあるということを否定しない、そのきっかけになれば嬉しいと思いました。私は映画を観た時、主人公に感情移入していました。その気持ちを理解し、受け入れたいと思った事がどんどん主人公と重なり、ラストシーンの言葉で全て救われました。このテーマは、自分がこの1~2年で向き合っていたことでもありました。男子高校生の役を演じたり、性別がどっちとも言えない役を演じたりすることが多くそれに対して向き合ってきたものを、この映画が救ってくれた感じがしました。

三浦さんとの共演はいかがでしたか?

伊藤 三浦さんはずっと作品で拝見していて、どこかで共演できたらいいなと思っていました。実際にお会いしたらしっかりとした空気で、ブレない軸がある役とも重なる瞬間が見えて素敵でした。

お話もされましたか?

伊藤 初号の後にあまりにもこの作品が好きだなと思って、感動を直接伝えたくてご飯に誘いました。時間が経ってから言うより、衝動的に思っている瞬間の感情をそのままご本人に伝えたい気持ちでした。私が『サマーフィルムにのって』に出演した時に試写会を観た共演者の祷キララちゃんから電話がかかってきて。「自分を信じて、胸を張って観てきて」とすごくいい言葉をかけてくれて“会いたいから駅で待ってる”と言ってキララちゃんの後にみる試写会に向かう私を待ってくれていました。直接伝えたかったからと手を握りながら言ってくれた気持ちにすごく感動しました。私はあの時のキララの純粋な対応に感動したから、自分もこの純粋に感動したすごくいいと思ったことを透子ちゃんに伝えたいと思って、同じように伝えました。

主人公の佳純はカテゴライズされて窮屈だと感じていると思いますが、伊藤さんは乃木坂46で“アイドル”というカテゴリの中でいることで、窮屈だと思ったことはありますか?

伊藤 私はポジティブな感情のほうが大きかったです。グループにいた時に映像というお仕事に出会ったから、今こういうお仕事をできていて、あの時に自分がショートフィルムに挑戦させていただいたり、好きなものを何度も伝えてきたからここにいると思っています。どちらかと言うと感謝の気持ちのほうが強いです。

今年の5月に乃木坂46の10周年のライブに出演させていただいたのですが、自分が卒業生の一人として出演させていただけると思っていませんでした。グループで活躍していたかと言ったらそうではなかったと思います。代表作があったり、1曲でセンターに立つなどもなかったので、ただあのような場に呼んでいただけて、今の自分をステージに立たせようとしてくれたことがすごいなと思って、その感動が大きかったです。

乃木坂46があったから今の活動があるということですね。

伊藤 グループ在籍時代に繋がった縁が今の自分の仕事に繋がっていたりします。今後も肩書きとしては絶対になくならないし、それが自分の存在によってプラスに捉えてもらえたらいいなと思っています。そういう人もいたんだと知ってもらえることも、ひとつの親孝行かなと。当時お世話になっていた人がいろいろな期待を込めて、映像作品に出演させてくださっていました。だから今はその親孝行だと思っています。親(乃木坂46)に返したいし、私はここまでやってますというのを見せたいです。

最近は以前にも増して映像作品への出演が続いていますが、ご自身の中ではどのような気持ちですか?

伊藤 どう映っているんだろうと思っていました。

昨年の『サマーフィルムにのって』や今年の『もっと超越した所へ。』など、特徴的なキャラクターも演じ切っていて、以前よりもさらに素敵な姿を拝見することができています。

伊藤 確かに『サマーフィルムにのって』以降は観てくれる人が増えてきたという印象はあります。ただ、今はどこまでいけるかなという不安のほうが大きいです。もちろん役者としてたくさん作品に出演できるということは自分がやりたいことではあるのですが、そこだけにとらわれずに自分が好きなことや、表現したいことも挑戦していきたいなと思っています。今は本を出したり、制作もしているのでバランスよくできるかは難しいのですが、来年もうまくバランスを取りながら頑張りたいなと思います。

伊藤さんにとって演じることの楽しさや魅力はどこにありますか?

伊藤 今年は『そばかす』もそうですし、他の作品で自分自身救われることが多くあって、それを自覚し始めたのは『サマーフィルムにのって』だったり、それをきっかけに続いた作品とか、自分が辛かったときに役を演じることで救われる瞬間があったりして。演じる上でいいことなのかは分かりませんが、作品で救われるということはすごいことだと思っています。完成したものを観た人が、また何かを思ったり、救われる瞬間がある役者はすごい職業だと今年に入ってからより感じるようになりました。

映画を作るお仕事はいかがですか?

伊藤 すごく言われます(笑)今はまだできる技量はありません。いざやるとなったら全部の仕事を投げ捨ててやらないとできないと思います。ある監督が映画のために引っ越しして、書き上げたということも聞いたことがありますが、私ももしかしたらそれくらいやらないと生み出せない気がするので、相当な何かがない限りできないかもしれない。今は自分が出演しながらできることをやっています。だからいつかなんですかね、本当にいつか分からないですけど。やらないかもしれないし。みなさんが言ってくれるから興味は持ってきました。

今回共演された前田敦子さんは短編映画の監督をやったこともありますが、そういったお話はされたことはないですか?

伊藤 まだそのお話はしていませんが、ジャンルレスに活躍する場が増えているから、そういう試みはすごくいいなと思います。役者にとらわれないほうが豊かに演じられると思います。いろんな経験をしたことが役として生きると思う。経験は演じる上で大事だと思うので、いろいろな経験をしたいです。

伊藤さんは役者以外にも活躍されていますが、役者に活かされているなと思う部分はありますか?

伊藤 あります。具体的にというのはすぐには難しいですけど、自分が役者として演じる役はモノづくりが好きな女の子とか、ギークな女の子が多いんです。それはたぶん自分の背景もあって選んでもらっていると思います(笑)そこで気づけた部分や“それって自分の武器だったんだ”、あの時に必死で好きなものを訴えててよかったなとか、役を演じたことで気づけることはあります。ピッタリだと思うと言われた時に、嬉しいなと思ったりします。

本作は一歩踏み出す勇気を与えてくれる映画ですが、ご自身の中で勇気を与えられていると思うものはありますか?

伊藤 エンタメですね。ざっくりしすぎてますが(笑)映画とか夢があるなと思います。映画も本も漫画もいろいろな作品を観たり、音楽を聞いたりすることでインプットをしてそれがいつの間にか好きなものになり、自分が生み出すならこうだなとかアイデアになるので欠かせないものです。あと人と話すことは大事というか、救われるポイントだと思います。この人と話したら勇気を持って一歩踏み出せるなという瞬間があるので。友達とか知り合いとか一種の安心材料にしてしまっている部分はあるのですが、そういう背中をおしてくれる人がいることによって挑戦してみようと思えます。

ヘアメイク:外山 友香(mod’shair)
スタイリスト:Takeru Sakai

【写真・文/編集部】

STORY
「愛こそすべて」「愛し愛され生きるのが人生の醍醐味」…そんな“恋愛至上主義”が当たり前でそれを疑わない社会。でも本当に「愛する人と出会い、結婚して、家族を作ること」だけが幸せと言えるのか―“恋愛至上主義”が常識化した社会を生きるひとりの女性が、恋人を作ることや結婚を勧めてくる周囲と向き合い、自分と向き合い、さらには将来にも向き合いながら、「自分は何者なのか?幸せの形とは何なのか?」を見つめていく、千差万別の幸せのカタチと希望に溢れた、多様性が叫ばれる今に相応しい新たなノットヒロインムービーズ。主人公・蘇畑佳純を演じるのは三浦透子。監督を務めるのは玉田真也。


TRAILER

DATA
映画『そばかす』は12月16日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開中
出演:三浦透子
前田敦子、伊藤万理華、伊島空、前原滉、前原瑞樹、浅野千鶴
北村匠海(友情出演)、田島令子、坂井真紀、三宅弘城、
監督:玉田真也 企画・原作・脚本:アサダアツシ
主題歌:三浦透子「風になれ」作詞・作曲:塩塚モエカ(羊文学)(EMI Records/UNIVERSAL MUSIC) 
音楽・録音・音響効果:松野泉
製作幹事:メ~テレ 配給:ラビットハウス 宣伝:フィノー 製作プロダクション:ダブ
©2022「そばかす」製作委員会 (not) HEROINE movies メ~テレ60周年
公式HP:https://notheroinemovies.com/ 公式Twitter・Instagram:@NotHeroineM

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