『春画先生』内野聖陽、北香那 インタビュー

INTERVIEW

『春画先生』で芳賀一郎役を演じた内野聖陽、春野弓子役を演じた北香那にインタビューを行った。

最初に脚本を読んだ時の印象を教えてください。

内野 春画の研究者ということで、「春画を研究って、なにやら怪しげ…」という気持ちと、教授と弟子という関係性にも引かれるものを感じました。最終的には意表を突く展開だったので、一瞬戸惑いを隠せなかったのは正直なところです。でも、微笑ましいおとぎ話のような感覚を持って、塩田(明彦)監督色に染め上げられてみたいという気持ちが強かったです。
 私はオーディションでこの役をいただいたのですが、脚本を読んだ時に絶対にやりたいと思って意気込んでいきました。24歳で何も楽しいことなどないだろうなと思っていたような人生が、春画に出会い、先生に出会い、人生がガラッと変わるというお話だったので、ワクワク感もありましたし、役が決まって撮影に入るのが楽しみでした。

実際に演じていかがでしたか?

内野 自分の思いとか企てを面に全く出さずにいるキャラクターなので、その分心の声が多い人だなと感じました。実際に監督からは「もう少しそぎ落とした感じでセリフを言ってほしい」とか、「ぶっきらぼうに、セリフを棒読みっぽく語ってほしい」とか、いろいろな演出を受けました。おもしろいけれども最初は難しくて、テイクを何度も重ねたところはありました。心の声が吹き出しのように表れたら相当おもしろいことを言ってそうなキャラクターだと感じました。
 初めての挑戦のことがたくさんあったので、少しドキドキしていました。私で大丈夫なんだろうか、できるのかなと。撮影の初日に白川和子さんがいらっしゃって、いろいろとお話しする中で少し胸の内を話したんです。そうしたら「『春画先生』で演じている北香那は北香那ではなく弓子だと。演じているというよりは、その瞬間は弓子、その意識を集中的に持ったら何も怖いものはないから」と言ってくださって。その瞬間は、北香那を捨て去る。弓子としてここにたどりついてこうなった、そう思ったら何も怖くないからと。とてもかっこいいなと思って、そこから気がふっと楽になって、エンジンがかかった気がします。

内野さんはこの役を演じたいと思ったきっかけがあれば教えてください。

内野 春画と聞いた瞬間に少し惹かれる思いはありました。春画に関しては、造詣は深くなかったんですが、性描写が露骨であるし、“一体何を研究してるんだろう?春画の専門家っておもしろそうじゃないかっ!”と。少しタブー視された世界観におもしろさがいっぱい詰まっている、男性の本音とかが埋め込まれているけど、本当は誰もが身近に感じるワクワク感があったり。芳賀一郎先生が好みの女性を育んでいく話…というのもおもしろそうで惹かれましたね。

北さんは挑戦が多かったということですが、それでも「絶対にやりたい」と惹かれた点はありますか?

 私は挑戦だったからこそやりたかった、挑戦したかったというのはあります。子役からやってきて、いろいろな現場でお仕事をさせていただいている中で、もう一歩女優として何か大きな経験をしてみたいというのがあったし、そう思えたのはこの脚本でした。読めば読むほどのめり込んでしまう感じがあり、伏線に気づいたり、いろいろなことを想像したり。そういうおもしろさがあったからこそ、そう思えたんだろうなと思います。あと弓子のキャラクターが好きでした。自分に近く、似ているなというのもあって、そういう意味でもやりたかったです。

お互いの演技を見て、どのような印象でしたか?

 内野さんとご一緒するのがすごく楽しみでした。リハーサルでお会いして、段階を踏む中で、内野さんの集中力、そして監督からのリクエストに答えた時の再現度、実現する力がすごく、初めてこんな場面を目の当たりにしたなと思いました。段階を経てどんどんと先生になっていく内野さんに追いつかなきゃと、私が取り残されている気がするというような、焦りと憧れを感じました。その中でも本番に入っていろいろなシーンをやっていくにつれて、先生に惚れた理由が分かるなと。すごく愛らしいですし、かわいらしくて。先生としての内野さんが私はすごく好きで、撮影中もずっと観察していました(笑)次に内野さんがどう持ってくるんだろうというのが楽しみで、勉強になりました。
内野 僕自身も芳賀先生の感性になって彼女を見ていたいというのはありましたね。芳賀先生にとって(弓子は)煌めく逸材だったので、どこが煌めく逸材なのかなといつも見ていたのかもしれないです。北香那さんご本人は本当に芝居に嘘がなくて、怒るときは毛穴から髪の先まですべてで怒ってくる、そういうのを目の当たりにして、これなんだな、芳賀先生が求めていた理想の女性というのは…ということを感じさせてくださり、僕のインスピレーションをたくさん喚起してくださる存在でした。一点の曇りもなく、嘘もなく直情的な女性を気迫のこもった態度で演じられていた印象です。素晴らしい女優さんです。

8年ぶりの共演ということですね。

内野 以前はほんの一瞬だったので、香那ちゃんに言われて「あー!」と思い出しました。あの時から比べると女優さんとしての佇まいが変わっているというか、面影はあるけれど、かなり変わっていますよね。
 そうだといいです(笑)

北さんは共演を楽しみにしていたということですが、共演できると聞いていかがでしたか?

 8年前は、内野さんとのシーンが本当に一瞬だったと思うので、今回こんなに濃厚にご一緒させていただけるというのでワクワクしかなかったです。ご一緒させていただいて本当に幸せなことだなと思います。

本作のおすすめポイントを教えてください。

 登場人物それぞれが自分の幸せに向かって真っすぐに進む姿が滑稽で、観ていておもしろいんじゃないかなと思います。
内野 特殊な世界を描いているようで、実はシンプルな本音や気持ちを描いていると感じています。特殊な世界観というのは、実はベールのようなもので、その裏にはシンプルな本音があるので、そこを楽しんで欲しいです。春画先生を演じた僕としては、初めて素晴らしい女性を見つけた時の喜びもストレートには出していなくて、いろいろと抑えて、散りばめられているので、大人がくすっと笑ってしまうおもしろさが詰まっていると思うので、そんなところも楽しんで頂けたらと思ってます。

【写真・文/編集部】

STORY
本作は、江戸文化の裏の華である“笑い画”とも言われた春画の奥深い魅力を、真面目に説く変わり者の春画研究者と、しっかり者の弟子という師弟コンビが繰り広げる春画愛をコミカルに描く。主演に内野聖陽、ヒロインに北香那を迎え、『月光の囁き』(99)、『害虫』(02)などの先鋭的な作品で映画ファンを唸らせてきた塩田明彦が監督・脚本を手掛ける。春画は江戸幕府から禁止された、禁制品で表に出ないものだったからこそ、自由な創作が可能となり、とどまることを知らぬ芸術の域に達して、庶民から大名までを虜にした真の江戸時代のエンターテイメントだった。自由な精神を現代に映画として表現することを目指して制作された『春画先生』。「好きなものにのめり込んでいく者たちの幸せ」としての究極の「推し活」を描く異色の偏愛コメディが誕生した。


TRAILER

DATA
『春画先生』は2023年10月13日(金)より全国で公開
原作・監督・脚本:塩田明彦
出演:内野聖陽、北香那、柄本佑、白川和子、安達祐実
配給:ハピネットファントム・スタジオ
R15+
※本作には無修正での浮世絵春画描写があります。
©2023「春画先生」製作委員会

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