直木賞作家・辻村深月による青春小説を映画化した『この夏の星を見る』で溪本亜紗役を演じる桜田ひよりにインタビューを行った。
2020年、新型コロナウィルスが蔓延したコロナ禍を背景に、登校や部活動が次々と制限され、更には緊急事態宣言に直面し、大人以上に複雑な思いを抱える中高生たちの青春を描いた本作。斬新な映像表現とキャラクター造形の深さに定評があり、映像界を疾走している新進気鋭のアーティスト・山元環が監督を務め、脚本はデリケートな心を真面目に描くだけではなく、物語として昇華させる力量が高水準の実力者・森野マッシュが務める。そして、haruka nakamuraが音楽を担当する。
主人公で茨城県立砂浦第三高校の二年生・溪本亜紗を演じるのは桜田ひより。天文部の亜紗は、スターキャッチコンテストをオンラインで開催することを企画する。亜紗と同じ茨城県立砂浦第三高校に通う生徒役を水沢林太郎、河村花、増井湖々、安達木乃が演じ、原作小説を執筆する際に取材した茨城県立土浦第三高等学校で本作の撮影が行われ多。また、リモート会議を駆使して同時に天体観測をする競技「オンラインスターキャッチコンテスト」に参加する長崎五島に住む学生を中野有紗、早瀬憩、和田庵、蒼井旬、東京の学生を黒川想矢、星乃あんな、萩原護や秋谷郁甫らネクストブレイクが期待される若き俳優たちが演じる。
桜田 人の心や感情を動かせるくらいの言動力があると思います。リモートでできるかもしれないというのも、「中学生でもできますか?」という言葉で動かされるものはもちろんですが、そこから“リモートでやればいいんだ”という発想力だったり、自分が窮地に立っている時の発想の転換が人よりも速くて、それを行動に移せるというのは、なかなかないと思います。私自身が学生の時にこういう子がクラスに1人いたら、それだけですごく頼もしいし、かっこいいなと思える女の子像を亜紗ちゃんに投影したので、とても演じがいがありました。
桜田 見終わった時に、とにかく綺麗だったなと思いました。人との繋がりだったり、コロナ禍での自分たちの星のようなキラキラ輝く時間だったり、リモートで繋がった青春と呼ばれるものが、本当に美しかったなという印象を受けました。
桜田 原作は脚本をいただく前に読ませていただきました。亜紗ちゃんはすごく真っ直ぐで、人を動かす力があり、言葉や行動で人よりも前に進むことができたり、それに感化される子たちもいるという中で、1つの強い芯を持った女の子だなと感じました。その中にも悩んでいることや辛いこと、人には見せない姿を人は必ず持っていると思っているので、1人になった瞬間や、ふとした時のみんなといる時とは違った亜紗ちゃんを映画でも見せていけたらいいなという思いで演じました。辻村先生と一緒に試写を見させていただいて、終わった後に少しお話させていただいた時に「桜田さんが亜紗ちゃんでよかった」とおっしゃっていただいたのが、自分の中ではこれに勝る言葉はないなというくらい最大の褒め言葉をいただけたと思いました。
桜田 そうですね。自分の表情というよりは、相手からもらう言葉や感情、表情のボールを受け取ることが難しかったので、自分で想像して補ったり、膨らませたりしなければいけない作業が今までにない感覚でした。
桜田 その人なりの表現の仕方というのは様々だと思うので、そこは受け取るのみというか。完全に共有をしてしまうより、悩むこと自体も役に繋がっていくと思うので、そういう話し合いはなかったです。
桜田 5年前は私は亜紗と同じ高校生だったので、実際に自分の周りの方々が修学旅行がなくなったり、大切な行事や、目指していたものがなくなっていて。悔しさとか虚しさをどこに向けていいのか分からなくなってしまった虚無感は近くで感じていました。撮影中も思い出した感覚はありましたし、リモートでみんなで繋がるという展開も、改めてそういうものが普及している時代でよかったなと思いました。携帯がなかったり、テレビがなかったり、そういう時代に起こっていたら、本当に人との繋がりがなくなってしまう気がして。だからこそ顔を見て言葉を交わす瞬間がどれだけ大切なのかということに改めて気づかされました。
桜田 スターキャッチコンテストのシーンでは、他の高校や中学校と合わせるためにカットの繋がりを考えていて撮影をしていたのがすごく印象的でした。この高校でこの向きから撮ったから、次はこっちから撮ってほしいというのを、監督の指示のもとカメラマンさんが動いていたり、この星に関しては、この高校とこの高校が競い合っている風に見せたいからお互いが交差するようなカットにするといったリンクしている部分を作っていました。
桜田 星空が映るシーンは、実は日中に撮っていて、綺麗な星の数々も実際には別の所で撮ったものを合成しているので、完成した作品を見てまるで夜に撮影したようなシーンに仕上がっていたのですごく驚きました。撮っている時はどんな風になるんだろうとワクワクしていたシーンでした。想像を超えるくらいの星空の綺麗さでした。
桜田 地方の撮影に行くと星が綺麗に見えて、夜空を見上げることはありましたが、知識もそこまであったわけではありませんでした。でも、空自体はすごく好きだったので、今回のお話をいただいた時には、撮影中にも日が暮れた時に実際に望遠鏡を使って土星を見ることができて、すごく綺麗でした。
桜田 先生に指導していただいて、自分で合わせました。
桜田 以前別の作品で地方に行った時に、山の中で撮影していたんですけど、ふと空を見上げると、私の人生の中で一番星が見えた星空だったんです。それがすごく印象的に残っていて、地面に寝そべって共演者の方と星を見た時間がすごく印象的でした。
桜田 この作品はコロナ禍のお話ですが、先の見えない不安だったり、目指していたものが消えてしまった虚無感の中で一筋の光を見つけて、一つの目標が決まった瞬間にみんなが一斉に行動に移して、自分たちの青春を取り戻そうとする前向きな映画です。亜紗ちゃんが、できることがあるかもしれないと見つけた瞬間は、この映画の中でもすごく軸になっている部分なので、そこは注目して見ていただきたいです。
【写真/蔭山勝也、取材・文/編集部】
2020年、コロナ禍で青春期を奪われた高校生たち。茨城・砂浦の亜紗や凛久は、失われた夏を取り戻すため〈スターキャッチコンテスト〉開催を決意する。東京では孤独な中学生・真宙、同級生の天音に巻き込まれその大会に関わることに。長崎・五島では実家の観光業に苦悩する円華、新たな出会いを通じて空を見上げる。手作り望遠鏡で星を探す全国の学生たち、オンライン上で画面越しに繋り、夜空に交差した彼らの思いは、奇跡の光景をキャッチする――。
『この夏の星を見る』は2025年7月4日(金)より全国で公開
監督:山元環
出演:桜田ひより
水沢林太郎、黒川想矢、中野有紗、早瀬憩、星乃あんな
河村花、和田庵、萩原護、秋谷郁甫、増井湖々、安達木乃、蒼井旬
中原果南、工藤遥、小林涼子、上川周作、朝倉あき、堀田茜、近藤芳正
岡部たかし
配給:東映
©2025「この夏の星を見る」製作委員会