映画『水の中で深呼吸』で主人公・葵を演じた石川瑠華にインタビューを行った。
自分は、女なのか、男なのか。この気持ちは、恋なのか、友情なのか。揺れ動く10代の心を描いた映画『水の中で深呼吸』。主人公・葵を演じたのは、『猿楽町で会いましょう』で第31回日本映画批評家大賞・新人女優賞受賞を果たし、『うみべの女の子』など数々の作品で主演を務める実力派俳優・石川瑠華。戸惑いながらも自身の輪郭を探し求める葵の心の機微を、ボーダーレスな佇まいと繊細な演技で表現した。さらに中島瑠菜を筆頭としたフレッシュな若手キャストが脇を固める。監督は、『スイート』で第30回キネコ国際映画祭の国際審査員特別賞、PTA賞のほか、モントリオール日本映画祭の短編映画最優秀賞を受賞した安井祥二。木村文乃主演の『紋の光』も現在公開中の、気鋭の映像作家だ。本作では、全ての人の心に潜む“言葉にならない想い”を、静かな光で照らし出すことを試みた。
石川 「LGBTQ+をテーマに描く物語」「高校生たちの物語」のような打ち出し方でオーディションをしていらっしゃったんです。その時は断片的な情報しかなくて。でもそれを見て、私も高校生の時に主人公の葵と同じ悩みのようなものを抱えていたことがあったので、オーディションに参加しました。
石川 オーディションは現役の高校生の方と一緒の回だったんです。私は高校の制服を着て行って、高校生に見えるように、高校生の物語だと思ってもらえるように最大限努力はしたのですが、やっぱり醸し出る雰囲気だったり真っ直ぐさだったり、現役の高校生の方が勝っていて、お芝居がどうこうというよりも勝てない何かがあるように感じました。「こういう子が選ばれるのだったら、私はこの映画には必要ないということだし、もう運に任せよう」という半ば投げやりな気持ちでした。その悩みは持っているし共感もできるけれど、あの雰囲気はもう出せないんだと思ってオーディション会場を出た記憶があります。
石川 嬉しいです。お恥ずかしいぐらい(年齢が)違うんですよ(笑)でも自分がそれを感じてしまったら終わりだし、上から人を見るようなことがあればそれが画に映ってしまう。極力キャストのみんなに染まれるように、みんなの線を勉強させてもらって、そこにどれだけ合わせられるかだと思っていました。日菜(中島瑠菜)とか、その年代の目線とどれだけ一緒にお芝居ができるかというのは、この現場ですごく勉強させてもらいました。終わった後は少し若返った気がしました(笑)
石川 最初はすごく気を遣っていただいて。でも、現場前のリハーサルや衣装合わせなどでみんなと会うことが多かったのと、2週間くらいの合宿撮影でキャストは4人で1部屋だったので、さすがに気を使うのも疲れたんだと思います(笑)本当にラフに、お菓子を食べながら夜中まで喋るとか、修学旅行みたいでした。(山下胡桃役の)倉田萌衣さんとは一緒にプールにも行きました。胡桃(役名)は、葵が友達の中で一番心を許している人、お互いに何があろうがきっと助け合っていくような固い絆があるような気がしていて。萌衣ちゃんと(八条院君もいましたが)クランクイン前にプールで練習した時間があったから、私はとても自然に葵でいることができたし、お互い寄りかかれるような関係性が築けたかなと思います。
石川 行かないですよね。私は頑張るときは一人が良くて、努力は人に見せたくないと思っていたので、プールも一人で泳ぎ込みに行こうかなと思っていました。でも来てくれないと思って軽く誘ってみたら、来てくれました。一人だったらある程度泳いだら辞めちゃうところでも、一緒に頑張っている人がいるともっと頑張れるんだと思いました。終わった後にみんなでご飯を食べたり、アイスを食べたり、公園で遊びながら話したり、役と自分の間にいるようでクランクインまでの幸せな助走でした。人と何かを練習することができたのは久々かもしれないです。
石川 ありました。みんな協調性があって、楽しむことが上手。だから、そこに自分は置いてけぼりにされてしまうかなと思っていたけれど、意外に染まりやすく、乗っからせてもらって。助けてもらうことばかりでした。ずっと一緒だったから自然とです。友達というか、高校生活こうだったよな、みたいな会話のテンポ感で普段から話していたので、ここの関係性は大丈夫だと、安心感がありました。映画でお芝居するのが初めての方もいたので、その緊張感や新鮮なものを見て、悔しくてもっと頑張ろうと思ったりとかもしました。
石川 自分が持った感性をちゃんと使いたいと思ったので、当時どんな感じで好きだったかとか、どういうことをされたら嬉しかったかとか、言葉がどう他の人からもらう言葉と違う感覚だったかとか、そういうことを詳細に思い出しました。あとは、私は結構外から入るタイプなので、普段から制服を着たり、水泳で体を鍛えたり。部活のことで頭がいっぱいいっぱいだと思うので、泳ぐこと、部活のことを常に頭で考えるようにしたりとかしました。映画は良くも悪くも断片的なので、その違う部分をどれだけ作れるかも大事だと思いますし、自分にできるのはそっちかなと。その埋める方かなと思いました。そこが映らないのが悔しいですが、それも映画ですよね(笑)
石川 全然表情は意識していないです。人間は普段、意識が表情に向いちゃうことがあると思うんですけど、水の中は全くその意識がなくて、心だけで動いていられる感じがして。お母さんに抱きしめられてるみたいな感覚というか、すごく落ち着くんです。実際の母にいきなり抱きしめられても、嬉しいけど落ち着きはしないんですけど(笑)例えとして、ファンタジー的にお母さんに抱きしめられた時のような安心感が、水の中にはありました。
石川 葵という人物の捉え方が、ちょっと監督と違ってしまったことがあって、「これ違う」と言われた時に、「じゃあなに?」の「なに」を探すのが難しかったです。
石川 監督も「なんだろうな…」みたいな感じで、「でも違うってことだけはわかるんだけど」と言っていました。違うと言われると、「あれ、私、葵ではないのかな」と思ってしまうくらい没入してしまって。役者としては自分でもどうかと思うのですが(笑)当時は時間もなくて「やばい、わからない」という状態からも抜け出せず。「葵がちょっと怖く見える」「葵はここではそんなに怖く怒らない」と言われて、表面的なことで怒りを減らすとか力を緩めるとかそういうことはできたのに、理由が見つからなくてすぐにできませんでした。もしそれで中途半端なOKが出てしまったら、私は葵に対して後悔するような気もして。でも監督自身が優しさを持ってる人で、映画の中で生きている人はなんとなく監督の性格を受け継ぐと思うので、もう少し監督の優しさをもらって怒りをマイルドにするだけで良かったんだと思います。
石川 今だからいろいろな反省点が出てきますね。撮影中はそれどころではなくて、ずっと「葵が万人に嫌われてしまわないか」ということを考えていました。私は悩んでいる人に対して別に否定的な意見は持っていないのですが、そういう人だったりそういう自分に対して厳しい意見や淋しい発言も多く聞いてきたので、やはり葵に対してマイナスなイメージを持たれることが怖かったです。
石川 家族ですかね。この年齢になってくると家族に必要とされることが多くなって、何かをしてもらうことよりも、何かをしてあげれることが多くなってくる。他人だと押し付けがましくなることもあるけれど、家族だったら必要ならするというシンプルな構造で成り立つので、その行動だけでしかないシンプルさが、私はすごく楽で。一緒に時間を過ごすとか、ご飯を食べるとか、それぐらいですけど、それが私の支えにもなっています。「誰かの役に立っていないと生きる意味がない」みたいなことを考えていた若い時代もあって、そうじゃないということは理屈ではわかるんですけど、やっぱり役に立っていた方が生きやすいと思っています。
【写真・文/編集部】
『水の中で深呼吸』は7月25日(金)より新宿シネマカリテほか全国で順次公開
監督:安井祥二
出演:石川瑠華
中島瑠菜、倉田萌衣、佐々木悠華、松宮倫、八条院蔵人
伊藤亜里子、川瀬知佐子、山本杏、森川千滉、倉林希和里、小西有也、野島透也、池上秀治、しゅはまはるみ