芥川なおによる純愛小説を酒井麻衣監督が映画化した『ストロベリームーン 余命半年の恋』で、監督を務めた酒井麻衣監督にインタビューを行った。
TikTokで話題となり、令和イチ泣けると話題の芥川なおによる純愛小説「ストロベリームーン」が、『余命10年』(22)、『いま、会いにゆきます』(04)などの脚本を手がける岡田惠和と、『美しい彼~eternal~』(21)などの監督を務める新進気鋭の若手実力派監督・酒井麻衣のタッグによって実写映画化される。余命半年と宣告された桜井萌が、高校1年生の春、一生分の恋をする物語。
萌は小さい頃から病弱で、家の中だけで過ごす日々。優しい父母と過ごしながらも学校にも通えず、友達もできない萌。そんな時、余命が残り半年であることを宣告され、家族は悲しみに包まれる。しかし、ある理由から萌は高校に通うことを決意する。そして入学式の日、初対面にも関わらず同じクラスになった佐藤日向に突然の告白。驚く日向だったが、萌の猛アプローチにより付き合うことになる。初めて「恋人」という存在ができた2人は、少しずつお互いの距離を縮めていく。いよいよ萌の誕生日、6月4日には萌が憧れていた好きな人と一緒に見ると永遠に結ばれるという満月「ストロベリームーン」を見に行くことに。しかし、その日を境に萌は学校から姿を消し、日向は萌と連絡が取れなくなる…。萌が消えた理由、そして13年後に届く真実とは―。
酒井監督 プロデューサーさんから、芥川先生の原作『ストロベリームーン』で、岡田先生の脚本でご一緒しませんか?とオファーをいただきました。なので、岡田先生が書かれることは決まっていました。まず岡田先生と打ち合わせでお話をして、この原作の良さ、そして映画化としてどのように構築して行きましょうかという話し合いをしました。そこから私もアイデアメモのような感じで、「こういうお部屋に住んでいるのはどうですか?」とか、「こういうエピソードがあったり、こういうモンタージュで2人が近づくのはどうですか?」といったメモを提案して行く中で、岡田先生が脚本にそれを入れてくださったりもしました。麗ちゃんの家がからあげ屋ということで、毎回の打ち合わせの時はプロデューサーさんが唐揚げを買ってきてくださって、楽しくお話しながら物語を作っていきました。普段、岡田先生がどのように脚本を描かれているのかは存じ上げないのですが、今回はかなりコミュニケーションを取らせていただきながら、プロデューサーさんも含め、岡田さんを中心に皆でアイデアを出し合ったものを岡田先生が「あ、面白いね」というふうに取り入れてくださったりしました。
酒井監督 當真さんは、「芥川先生が映画化される時にイメージの方はいますか?」となった時に、芥川先生から「當真さんはいかがでしょうか」というお話があったようで、私が合流する時には既に決まっていました。齋藤潤さん(佐藤日向役)、池端杏慈さん(高遠麗役)、黒崎煌代さん(フーヤン役)、吉澤要人さん(カワケン役)たち高校生キャストに関してはオーディションで決まりました。日向を探すのにはすごく時間がかかって、オーディションで齋藤潤さんのお芝居を見ただけで、目の奥が潤んでしまうこの力は、日向くんに通じるものがあるなと感じ、ぜひお願いしたいと思いました。
酒井監督 お2人が持っているものが強いので。お2人ともどう育ったらそんなに優しく強く儚くいられるの?という空気を纏っていらっしゃるのです。それを120%映せるようにはしたいなと思っていたので、脚本の中の感情のラインだったりは確認し合ったり、エチュードをしたりしました。高校生5人全員でエチュードをしたりして、柔らかさが出るようにというのは心がけていました。特に2人がいるだけで場所の空気が綺麗になる感覚はずっとありましたね。それが化学反応みたいな感じで、2人の良さも最大限発揮されるような雰囲気でした。あの澄んだ空気は、ご本人は気づいてないんじゃないかなっていうぐらい、お2人にとっては当たり前の空気なのかもしれないです。
酒井監督 同じ画角で撮るというのは意識しました。同じ場所、同じ画角だけど時が経って人も成長して、少し歴史を感じる。それが空気として匂い立つっていうのは意識して撮りました。
酒井監督 自分が萌ちゃんとしてこの物語と向き合う時間が長かったと思います。自分が萌ちゃんであると仮定して考えたら、周りに悲しい思いをされるのは悔しいというか。みんなに幸せでいてもらいたいし、萌ちゃんの温かさが伝染するような話でもあるなと思ったのです。1人の少女の強く生きた証の話でもあるので、そこは悲しいというより、幸せに生涯を終えているので、そこは大切に、人の愛情、優しさをしっかり描こうと思いました。それが温かく、ほっこり見えるところなのかなと思います。
酒井監督 多分全部です(笑)湖ももちろんなのですが、人の生きている家、萌ちゃんのお家と日向くんのお家ですかね。そこを映すことによって、萌ちゃんはこういう生活をしてたのかなって想像できる。日向くんもこういう生活してるのかな、ということはこういう子なのかなって想像できる。そこは結構粘ったと思います。
酒井監督 静岡にある旧エンバーソン住宅をお借りして、美術部さんが飾ってくださいました。美術監督の安宅(紀史)さんもすごくこだわってくださって。萌の部屋は出窓がなかったのですが、やっぱり出窓が欲しいなと思って。そういったどこかで感じた憧れは、萌ちゃんの部屋にすごく詰まっていると思います。
酒井監督 そうですね。お父さんとお母さんの愛情も感じますよね。もう長くないことが分かっていて、でもなるべくこの子が楽しく過ごせるように、学校には通えないけど、他の人から見たら甘いって思われるかもしれないけど、欲しいって思ったものはなるべく部屋の中にいっぱいにしてあげたいっていう愛情が感じられるなとは思います。
酒井監督 ちょっと懐かしさもありつつ、一癖あるお洋服が多かったんじゃないかなと思います。制服も、見たことあるようで、でもその見たことあるようっていうのは、頭の中で見たことあるような、そんなお洋服がいっぱい出てくる気がします。
酒井監督 原作を読んで思い出したのと、現場で當真さんや齋藤さんを見て、その純粋な生き様というのに感銘を受けたというところが大きいです。あと、ちょうど撮影直前に自分の祖母が亡くなりまして。それで『ストロベリームーン』で描いてる田舎風景が、幼い頃夏休みにそのおばあちゃんの家に行って見た風景だったりもしたので、手紙のくだりとかは自分の祖母を思いながら相談したりというのがあります。でもそれは別に皆さんに言ってるわけではなくて、自分だけの思いとしては、ちょうどそういう時期でしたという感じですね。
初めて恋をし、初めて愛し、初めて愛を知った瞬間を、覚えていますでしょうか。
頭の中に誰かを想ったまま見る風景や匂いは、あの時の感情のまま、心に残ると思っています。抱きしめても抱きしめきれないその感覚が、この映画の中に詰まっています。
大切なあなたを思えば、たとえ何があっても希望を持てる、そんな事を感じさせてくれる物語に出逢えて、私は幸せに思います。
今これを読んでくださっている貴方に届いてほしいと、切実に想っています。
酒井監督 人は生きてる以上、いつか亡くなるので、人ごとではいられないというか。なので、私は「余命もの」というジャンルには思えないです。
酒井監督 今回2か所あって、ストロベリームーンを見るシーンと、萌ちゃんの病室から見えた景色です。何かセリフのやり取りがあってとか、何かアクションがあってとかそういうシーンではないんですけど、好きな人と隣にいる、好きな人と会えた、好きな人の愛を感じた、その時に感じるものに、私自身がぐっときたので、そこはぜひ見てほしいですね。
【写真・文/編集部】
『ストロベリームーン 余命半年の恋』は2025年10月17日(金)より全国で公開
監督:酒井麻衣
出演:當真あみ、齋藤潤/杉野遥亮、中条あやみ
池端杏慈、黒崎煌代、吉澤要人、伊藤健太郎、泉澤祐希、黒島結菜、池津祥子、橋本じゅん
田中麗奈、ユースケ・サンタマリア
配給:松竹
©2025「ストロベリームーン」製作委員会