バンクシーと彼のアートが放つ魅力と影響力に迫るドキュメンタリー『バンクシーを盗んだ男』に登場する、パレスチナの分離壁をキャンパスに思いを込める“グラフィティアーティスト”に注目だ。

正体不明のカリスマグラフィティアーティスト・バンクシーと彼の絵がもたらす影響力に迫るドキュメンタリーである本作。紛争地区に指定されているパレスチナ・ヨルダン西岸地区にあるベツレヘム。そこにはパレスチナとイスラエルを分断する高さ8メートル、全長450キロを超える巨大な壁が存在する。そのパレスチナ側の壁の一部に「ロバと兵士」の絵が描かれた。描いたのはバンクシー。この絵がパレスチナで反感を呼び、怒った地元住民が壁面を切り取ってオークションへとかけてしまう事態に―。ナレーションを務めるのは、ロック界の生ける伝説イギー・ポップ。

本作は“ストリートアート”を取り巻く著作権、作品の保護に迫ったドキュメンタリー。映画の監督を務めた経験もあり、映画の題材となっているバンクシーは、反権力的なメッセージをストリートで表現して世界的な影響力を持ったストリートアーティストだ。本作で元となるのは、パレスチナ・ヨルダン川西岸地区にあるベツレヘムの巨大な分離壁にバンクシーが描いた一枚の絵。冒頭ではその分離壁について「その壁はイスラエル人にとっては治安を守る壁。パレスチナ人には分離壁。アーティストにとっては最高のキャンバス。」と表され、その壁には多くのアーティストにより、様々なアートが描かれている。今回は、その中からロン・イングリッシュ、JR、BLUを紹介する。

作中で「私たちの作品を見にきてもらうことで、パレスチナ支援につながればというのが趣旨」と語るのはロン・イングリッシュ。ニューヨークを拠点に活動するイングリッシュは[POPaganda]という造語を作り出したアーティストで、異なる印象のものを融合させ社会風刺を表現することで有名だ。そんな彼の代表作は、太ったファストフードのマスコットやリンカーンとオバマ大統領を融合した作品など。バンクシーとも手法などをよく比べられて注目される彼の絵を作品中でも探してみよう。

フランス人アーティストのJRも分離壁にアートを残す1人。バンクシーやロン・イングリッシュと違うのは、ペインティングやスプレーとは違い写真を使ったアーティストというところ。彼は大きな都市に限らず、アフリカやインドなど貧しい地域に赴いたり、東日本大震災の後に来日し日本にも作品を残していったというから親近感を感じずにはいられない。彼がアートに使用するのは〈人物のモノクロ写真〉。現地の人々を撮影し、その写真を引き伸ばし町中に貼っていくというスタイルだ。そのスケールにはまさに町を巻き込んだアートとなっている。本作では彼がイスラエルとパレスチナを隔てる壁に施した作品が一瞬登場する。壁に貼られた写真はパレスチナ側にはイスラエル人のものを、イスラエル側にはパレスチナ人もので、住んでいる人々の顔の見分けがつかない二つの国へのメッセージを表している。

最後に、細かいプロフィールなどは不明のイタリア人アーティストBLU。1990年代後半から活動を始めたと言われている彼の特徴的なアートは大きな人間をモチーフにし皮肉な印象を持っている。ストップモーションアニメーションの形で壁に画を描いていく動画「MUTO」はYouTubeで1,200万回の閲覧数を記録している。そして彼もいくつかの絵を分離壁に残しており、そのひとつは高く立ちはだかるボーダーの壁を人差し指で破るイメージで描かれているメッセージ性の強いものとなっている。画像の絵はそのBLUが分離壁に描いた絵の一部になっている。

バンクシー以外のさまざまな思いで分離壁に絵を施すアーティストたちのアートを探しながら本作を楽しんでみるのはいかがだろうか。

ストーリー

正体不明の覆面グラフィティアーティスト・バンクシー。彼はパレスチナ・ヨルダン川西岸地区ベツレヘムの壁に「ロバと兵士」の絵を描いた。これが地元住民の怒りをかい、タクシー運転手のワリドがウォータージェットカッターでその壁を切り取った。ワリドは大手インターネットオークションサイト「eBay」に出品し、最高額の入札者に売ろうと試みるのだ。この巨大なコンクリートの壁画はベツレヘムから海を渡り、美術収集家たちが待つ高級オークションハウスへ送られることになる。バンクシー、そして彼の描いた絵がもたらす影響力をたどっていくと見えてくるものとは―。

映画『バンクシーを盗んだ男』は2018年8月4日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国で順次公開!
監督:マルコ・プロゼルピオ
ナレーション:イギ―・ポップ
配給:シンカ
© MARCO PROSERPIO 2018