『おらおらでひとりいぐも』の公開後舞台挨拶が11月23日(月・祝)に新所沢レッツシネパークで行われ、沖田修一監督、東出昌大が登壇した。

本作は、75歳、桃子さんの、あたらしい“進化”の物語。75歳でひとり暮らしをしている主人公“桃子さん”役には映画『いつか読書する日』以来15年ぶりに映画主演を務める田中裕子。そして桃子さんの「娘の時代」「妻の時代」を蒼井優が二人一役で務める。メガホンをとるのは『南極料理人』『横道世之介』『モリのいる場所』などを手掛け、数々の国内外の映画賞を受賞してきた沖田修一監督。東出昌大、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎ら豪華俳優陣も集結し、可憐でたくましい桃子さんの日常を描く。「ひとりだけれど、ひとりじゃない。」桃子さんが辿り着いた賑やかな孤独とは―。

沖田修一監督の出身地である埼玉県所沢市の新所沢レッツシネパークにて行われた今回舞台挨拶には、同じく埼玉出身の東出昌大が登壇。この街で育ち、この映画館で人生初めての映画となる『グレムリン』を見たという沖田監督は地元の温かい歓迎に感激の面持ちの様子。

東出は、田中裕子と蒼井優が現在と若い頃を2人1役で演じた主人公・桃子の夫・周造を演じたが、最初にオファーを受け、台本を読んだ際の印象について「『すごい台本だなぁ・・・』と思いました。もともと、沖田組に憧れがあっていつかご一緒できればと思っていたところ、大女優で大先輩である田中裕子さんも出演されると伺って、『これはぜひ!』と一も二もなく飛びつきました」と振り返った。沖田監督は周造役について「周造って、都会の中の故郷という“山”の印象があって、まず大きな人にと思ってまして、原作に“美男子”とあり、身体が大きくてそういう印象の東出さんがぴったりだと思って、どうしても出てほしくてお願いしました」と東出さんにオファーを出した経緯を明かした。

期待を胸に飛びこんだ沖田組の現場の印象について東出は「監督が映画少年のように嬉々として現場にいて、プロポーズのシーンで、監督がカメラ横で『ふん!ふん!ふん!』ってうなずいてて(笑)。(撮影の)近藤龍人さんが撮っている画じゃなくて、役者のお芝居をご覧になってるんですね。そういう温かさ、映画愛が沖田作品に通底する朗らかな温かさなんじゃないかと思いました」と述懐。特に食事のシーンの周造の食べっぷりが魅力的だが、沖田監督は「東出さんが大衆食堂で食べるシーンは印象的です。たくさん食べてほしいと思っていたんですが、東出さんが口からワカメが出るくらい、たくさん食べてて面白かったです(笑)。(ワカメが)気になるのでもう1回撮ったんですけど、でもやっぱりワカメが出ている方が面白いんですよね。現場で東出さんも『こっちのほうがよくない?』という顔をしてた気がします」と印象的な食事のシーンを挙げた。

東出は「飯島奈美さん(フードスタイリスト)は、見た目だけの高級さとかではなく、本当においしそうで、そして実際においしい食事をご用意してくださるんです。業界で食事のことを“消えもの”と呼ぶんですけど、飯島さんの食事は消えものじゃなく、物語を代弁する重要なアイテムとして存在するので、そのお力を借りました」と語った。

昭和の時代の桃子を演じた蒼井優とは『スパイの妻』に続いての共演の東出は「『スパイの妻』とは真逆の印象でしたが、周造はあんまり蒼井優さんを意識するという芝居ではなかったと思います。その中で毎回、しゃべり方も空気感も違うし、レンズの前でもいつも自由でいる蒼井優さんで、その姿に尊敬の念と共に、動きのきっかけや心を動かされるお芝居の力をいただきました」と振り返る。

一方、現在の桃子を演じた田中裕子については「以前から映画やCMで拝見していた姿がお美しくて、何なんだろう?と思ってました」と語り、特に周造が桃子の手を取るシーンについて「田中さんは長回しでずっと現場にいらしたんですが、僕はカイロをポッケに忍ばせて、それが幸いして手が温かかったんですね。田中さんの手は冷え切っていて、その手を温めることが出来たのが周造としても嬉しかったです。あのシーンは、田中さんが感極まる瞬間もあったんですけど、監督は『ここは感極まるほうじゃなく、2人の長い年月の・・・』と演出をされているのを見て、いいシーンだなぁと思っていました」としみじみ。沖田監督も「田中さんのお芝居を見て、ひとりでグッとなっていました」とうなずいていた。

最後の挨拶で東出は「田中さんは、芝居が終わると必ずこちらに向き直って一礼してくださるんです。その姿勢に俳優としてのすごさを感じました。沖田作品に通底する人間らしさ、温かさみたいなものは、役者が自分の人生や経験から想像し、人ってこうなんじゃないか?と思ったりしながら『こう見えればいいでしょ?』じゃなく、『その人物であろう。そうなりたい』と思ってぶつかっていくことをしたくなる台本だからこそ、みんなそういう芝居になるんじゃないかと思います。本当に沖田組に参加できることは、幸せな時間でしたし、幸せのおすそ分けみたいなことがお客様にできていれば嬉しいです」と本作をアピールした。

映画『おらおらでひとりいぐも』は全国で公開中!
脚本・監督:沖田修一
出演:田中裕子、蒼井優、東出昌大/濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎、田畑智子、黒田大輔、山中崇、岡山天音、三浦透子/六角精児、大方斐紗子、鷲尾真知子
配給:アスミック・エース
© 2020 「おらおらでひとりいぐも」製作委員会