第35回東京国際映画祭 ガラ・セレクション部門出品作品『バルド、偽りの記録と一握りの真実』の記者会見が10月29日(土)に都内で行われ、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が登壇した。

10月24日(月)~11月2日(水)に日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区地区で開催される第35回東京国際映画祭。ガラ・セレクション部門出品作品『バルド、偽りの記録と一握りの真実』は、『バードマン あるいは (無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(15)、『レヴェナント:蘇えりし者』(16)でアカデミー賞監督賞に輝いたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が手がける、ある男の壮大な心の旅路をテーマにしたノスタルジック・コメディ。ロサンゼルスを拠点に活躍する著名なジャーナリスト兼ドキュメンタリー映画製作者の主人公シルベリオ・ガマ(ダニエル・ヒメネス・カチョ)が、国際的な賞を受賞することが決まり、母国であるメキシコへと旅立つ。まさかこの旅行をきっかけに、生きる意味すら見失うことになるとは知らずに―。

今回13年ぶりの来日となったイニャリトゥ監督だが、第35回東京国際映画祭において14年ぶりに復活する黒澤明賞の受賞が発表されており、「これほどいい日本に戻ってくる機会ない。光栄で、非常に興奮しています」と言い、長編監督デビュー作『アモーレス・ペロス』が2000年開催の第13回東京国際映画祭でグランプリを受賞したことに「私の記憶の中でも非常に大事な賞をいただいた。それから22年を経て、名監督の名を冠した賞を受け取る。(黒沢監督は)今まで存在した監督の中でも最高峰のお一人の名を冠した賞を受け取るのは大変な喜びです」と表現した。

黒沢明監督の作品から影響を受けていると話すイニャリトゥ監督だが「身体的な面と精神的な面が同居していて、人間の心情も反映されている」と言い、さらに黒沢監督の発言を引用して「リスクを恐れない、あえて失敗に飛び込んでいく」点や「謙虚な姿勢が美しいと思いました。作品と人間性の両方に敬意を表しています」と語った。

アカデミー賞監督賞に輝いた『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2015)でマイケル・キートン、『レヴェナント:蘇えりし者』(2016)ではレオナルド・ディカプリオを主演にしたイニャリトゥ監督だが「もちろん好きな俳優はいますが、一度心に決めて脚本を書いたことがあったのですが実現しなかったんです」と明かし、「誰かということは切り離して考えています。そのため特に今一緒に仕事をしたい俳優はいません。その時の痛みを経験しないように守っているので」と語った。

本作は主人公の職業が映画監督であったり、イニャリトゥ監督自身の経験なども影響を与えているが「特殊な映画です。個人的な実体験を多く用いています。ただ、私はバイオグラフィを信じていません。記憶は記憶であって、真実が抜け落ちていたりします。本作ではあえて現実を欺く。現実と空想の間を漂う作品と言えるかもしれません」と語り、実際に作り上げた結果「あえて覚えていたくないような記憶も出てくるわけで、発想の源として素晴らしい題材だと感じました。(今後は)そこからまた発展していければと考えています」と語った。

また、キャストとのコミュニケーションについて重要なことは「よいキャスティングをすることです。役柄が抱えるものを共有できるキャストだと理解も早いです。2つ目は、このキャラクターにはこういったことをしてほしい、だけどやりたいことができない、俳優にはどうしたらいいかを考えてもらいたい。私と俳優で共通言語を持つということです。伝えることが少なければ少ないほど理解が深まります。ちょっと誘導する言葉を示唆します」と心掛けていることを語った。

最後にイニャリトゥ監督は「この作品は非常に私の個人的な視点から起因したもの。普遍的なテーマで、多くの人が共有できるテーマです。個人的に日本文化に近いものを感じていて、こんなに離れているメキシコと日本だけど、非常に親近感を感じています。日本と何らかの橋渡しになるような、魂が呼応するようにこの作品がみなさんに届けばと思っています」とメッセージを送った。

【写真・文/編集部】

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Netflix映画『バルド、偽りの記録と一握りの真実』は12月16日(金)より独占配信

第35回東京国際映画祭は2022年10月24日(月)~11月2日(水)に日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区で開催
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