『湖の女たち』の完成報告会が4月16日(火)に都内で行われ、福士蒼汰、松本まりか、大森立嗣監督が登壇した。

大森立嗣が監督・脚本を手がけ、全編にわたって観る者の理性と感性を激しく揺さぶり、比類なき衝撃的な映画体験をもたらすヒューマン・ミステリーである本作。介護施設での殺害事件を発端に、想像もつかない方向へとうねり出す物語は、重層的な構造と壮大なスケール感で圧倒する。事件が混迷を極めるなかで、身も心もさらけ出す難役に挑んだのは、刑事・濱中圭介役を演じた福士蒼汰と、事件が起きた施設の介護士・豊田佳代役を演じた松本まりか。圭介と佳代の、一心不乱に互いを求めて貪り合うその姿は、闇夜の湖畔で艶めかしい“生”の輝きを放つ。今までに見たことのない福士の淀んだ視線、松本の剥き出しの心が「今、世界は美しいのだろうか」という問いの答えとなり、見るものの心に突き刺さる。

本作のオファーを受けて「作品を読んで難解ではあった」という福士だが、一方で「自分の仕事は役を演じるということなので、圭介を見てみようと思ったら圭介も難解で」と振り返りつつ「監督にお芝居を見てもらった時にダメ出しを受けて、ダメ出しの中で気づいたものがあって。勝手に圭介が近づいてきてくれた感覚があって、自分から作っていくことはなく想像以上にスッとハマった役」と明かした。

「作品について頭で理解しようとすることはその時の私には難しかった」と振り返り、「頭で理解しようとすることをやめました」という松本は「似た孤独感とか焦燥感とか、そういったものを自分の状態を近づけるという理解でしかなかった。それほど非常に難しい、理解しようなんておこがましいような作品」と語った。

そんな劇中での2人の関係性については「難しい」と話す福士は「必ずしも生産性があるものが美しいとは限らない。生産性がないからこそ美しい側面があるんじゃないかとなんとなく思って」と自身の思いを語った。

「支配する側、される側という主従関係に見えますが、支配されるのを求めているから支配させている、そういった関係性の見方も一概にどっちがどっちでって言えないんだなと、おもしろいなと思いました」といい、「これを愛と呼ぶのか、何と呼ぶのか、それは分からない。こんなに言語化しようがない愛の形ってあるんだなと思いました」と語った。

今回初のタッグとなった福士なついて「初対面だったけど波長が合う感じがあって、会った瞬間から信じているという感じがあったので、俺も絶対に信じようと」と思いを語った大森監督。松本については「昔からよく知ってる。監督と主役で仕事ができることにものすごいうれしさがありました」と喜んだ。

一方で、撮影現場では「3日目あたりまですべての芝居にNGを出された気がする」という福士は「『今のもう一回。声いらないから』と言われて。意図せず着替えているという声を出してらしいです。俳優は怏々として状況を説明してしまうことをやってしまったりする。僕も『仮面ライダー』出身なので、すべての行動に音をつけることが得意なんです(笑)エンタメとかにはいいこと。リアリティを求める作品では必要ないんだなと気づいた」と本作でのターニングポイントについて語った。

一方で、松本は「全肯定の人。4日目以降の事だと思うけど。ここまで俳優のことを信じ切るかという。『まりかがそう思うんならそれでいい』と、私が迷いながらやったとしても、『そう思ったんだったらそうだ』と。この覚悟、ここまで自由に感じたものをやってそれが正解だと言えるその覚悟がすさまじいなと思った」と驚きを隠せない様子で「この映像の中で本当に生きろよと言われる恐ろしさ。私を信じ切ってくれている愛と同時にその恐ろしさ。自分が自分であらなければならない、本当の意味で演じなければならない」と本作での撮影を振り返った。

本作で初共演となった福士と松本だが、松本の印象について「愛情深い人」と表現した福士は「人が好きなんだな」と感じたという。撮影現場では「現場でセリフ以外の会話は一切せず、僕は笑顔を向けずに現場にいたのでそれをどう思ったのかは知らなかったんですけど、そうすることで圭介と佳代の関係性と似た感じを作ることができるんじゃないか。会話はゼロでした」という思いがあったという。

福士については「爽やかな好青年のイメージだったので想像がつかなかった」という松本だが「初日のシーンをやった時にびっくりするくらい恐ろしかった。素晴らしかったです。怖かったですし、変な色気もありましたし、それがすごいよかった。この圭介だったら私は考える必要ないなと」と印象を語った。さらに「それ以外の彼を知りたくないという気持ちになって、初日に少し挨拶をしたんですけど、この人の笑顔とか優しさを見たくない、プライベートの会話を聞きたくないと私自身も思っていて。あの圭介のイメージのままがいいなと思って、福士さんからは距離を取って目も合わせないように」と振り返った。

しかし、そのことで「どう思われているかなと思って」という福士に、松本は「正直嫌いでした(笑)私、福士くんと合わないなと思って。嫌いなんだけど、嫌いがいくところまでいって求めてしまう状態ではあった。そのままお別れしたので、1年半、会うことすらなく今に至る」と明かした。その後、本作のプロモーションで会うことになって「役を抜けた福士蒼汰さんはめちゃくちゃ好感度。こんなにしゃべりやすいの?と、すごい好きになりました」と現在の印象を語る松本は「会話も弾むし、こんな人だとは思わなかった。私の中では『湖の女たち』の中での圭介が本当の福士蒼汰だと思って。だってあれは出せないですもん。恐ろしいですよ」と笑いを誘った。

さらに、今聞きたいことをフリップで質問する場面では「僕のコト今でも嫌いですか?」と書いた福士に、「嫌いじゃないですよ」と笑顔を見せた松本は「それほど恐ろしい圭介がいる。私が嫌いと言っている圭介はとっても魅力的なんです。色気があって、何とも言えない魅力があって。好青年・福士蒼汰にはない、本当に見たことがない顔」と称賛した。

【写真・文/編集部】

『湖の女たち』は2024年5月17日(金)より全国で公開
監督・脚本:大森立嗣
出演:福士蒼汰、松本まりか
 福地桃子、近藤芳正、平田満、根岸季衣、菅原大吉
 土屋希乃、北香那、大後寿々花、川面千晶、呉城久美、穂志もえか、奥野瑛太
 吉岡睦雄、信太昌之、鈴木晋介、長尾卓磨、伊藤佳範、岡本智礼、泉拓磨、荒巻全紀
 財前直見/三田佳子
 浅野忠信
配給:東京テアトル、ヨアケ
©2024 映画「湖の女たち」製作委員会