『碁盤斬り』の公開記念舞台挨拶が5月18日(土)にTOHOシネマズ六本木ヒルズで行われ、草彅剛、市村正親、小泉今日子、國村隼、白石和彌監督が登壇した。

本作は、ある《冤罪事件》によって娘と引き裂かれた男が、父として武士としての誇りを賭けた《復讐》を描く、感動のリベンジエンタテイメント。浪人・柳田格之進は謂れのない嫌疑をかけられ藩を離れ、亡き妻の忘れ形見の娘とともに貧乏長屋で今日の米にも困る暮らしをしている。落ちぶれても武士の誇りを捨てておらず、とりわけ嗜む囲碁にもその実直な人柄が表れ、正々堂々と嘘偽りない勝負を心掛けている。一方で、清廉潔白がゆえに半面融通が利かない男でもあった。あるきっかけで葬り去られた 《冤罪事件》の真実が明かされ、命を賭けた仇討ちを誓うが、それは、父娘が引き裂かれることを意味していた…。草彅剛が冤罪に貶められた浪人・柳田格之進役として、時代劇を初めて手掛ける白石和彌監督とタッグを組む。共演は、清原果耶、中川大志、奥野瑛太、音尾琢真、市村正親、斎藤工、小泉今日子、國村隼と錚々たる顔ぶれが集結した。

公開2日目を迎えたこの日の舞台挨拶は、全国47都道府県327の劇場に生中継。満席の会場を笑顔で見渡した草彅は「昨日と変わらず、ずっとドキドキしていて、朝からエゴサーチしてました(笑)」と報告し、「今日は、マスコミが入らない舞台挨拶なので、より深くおもしろい裏話ができると思います」とニヤリ。「映画では僕の新しい顔が見られると思います。みなさんに支えられて役を作り上げることができました」と共演者に感謝した草彅は「ひとりでも多くの人に観てほしいと思っています。よろしくお願いいたします!」と呼びかけた。

萬屋源兵衛役の國村は「タイトルにもあるように、囲碁のお話です」と切り出し、「囲碁というものは打ち手の品性や性格、手筋などいろいろなものが出てきます。打ち手同士が影響し合う、お互いがお互いにインスパイアされるような関係性です。それでいて、人が変わっていくある種の成長譚でもあり、物語が進んでいくと復讐譚にも変わっていく。そういうところを観て楽しんでいただければと思います」と囲碁の性質に触れながら映画の注目ポイントを語った。

長兵衛役の市村は「どうもー!全国のみなさーん、会場のみなさーん、舞台俳優の市村正親でーす。今回は白石監督の映画に出させてもらいました!とてもうれしいでーす!」とハイテンションで挨拶。「いい親分(役)ができたと思います」と出来栄えに自信を滲ませ「全国のみなさーん、観てくださーい!」と会場の隅々まで届く声量で観客を圧倒した。お庚役の小泉も市村のテンションに釣られて大きく手を振り、会場と生中継先に挨拶。「お庚は廓(くるわ)の女将で、世の中の表も裏も見て来た貫禄のある女性。格之進と(清原果耶演じる)お絹ちゃんを優しく見守っているのか、厳しくしているのか、そのあたりが見どころだと思います」と役と見どころを説明。初日舞台挨拶の参加は叶わなかったが、格之進とお絹の二人を見守る役の気持ちが続いていたのか、「昨日はずっとエゴサーチ(笑)評判もよろしかったようで、よかったです」とホッとした様子の小泉は、「(書き込みを)見ているので、ハッシュタグをつけてつぶやいてください!」と感想の書き込みを促していた。

「朝から観てくださってありがとうございます」とお礼を伝えた白石監督は「念願の時代劇。草彅さんをはじめ、本当に素敵なキャストのみなさんと、京都という伝統ある場所で今もずっと働き続けているクリエイターのみなさんと一緒に映画作りができました」とニッコリ。続けて「扮装にもセットにもひとつひとつに感動しながら映画を撮っていました。僕の感動のすべてがスクリーンに詰まっています」と充実感を滲ませていた。

格之進を演じる草彅は、スクリーンで普段とは違うかっこよさで魅了するが、『碁盤斬り』の舞台挨拶ではたびたび草彅のギャップが話題に。「かっこよさにもいろいろあるんでね(笑)」と話した草彅は「僕の顔(映画のポスター)を貼り付けたバスも運転したりして」と都内5か所を周遊中(5月27日までの予定)の本ポスタービジュアルをラッピングしたロンドンバスについて言及。「僕が運転しているわけじゃないけれど」と笑いながら、「僕に見えないとか、誰だか分からないというのは褒め言葉だと思って(感想を)受け取っています。それだけ役に入り込んでいたと思うようにしています」と反響への思いを語り、「僕も(映画を)観た後に僕じゃないって思いました。芸能生活の中で、一番大人な顔を撮ってくれたんだと思います」と白石監督の方を向き深々とお辞儀。新しい顔を引き出すことができたのは、共演者の存在もあったとし、「みなさんと共にお仕事をして来た、(これまでの)いろいろなつながりもあってできたのかな」としみじみ。「自分が観てもかっこいいって思うし、一番気に入っている作品になっています」と新たなお気に入りができたと報告し、大きな拍手を浴びていた。

「笠(かさ)姿がかっこいい!」という小泉の言葉に、「そう!自分でもそう思います!」と満面の笑みを浮かべる草彅。「今、笠をかぶったら世界一じゃない?」との小泉の褒め言葉に、「日本を飛び越えて。国際的な。ワールドナンバーワン笠!」とキャッチフレーズをつけ会場を笑い声と拍手でいっぱいにした草彅。小泉からの大絶賛にご機嫌の草彅は「先輩方に囲まれて、(映画の中で)ちゃんと仕事しています!」と、かっこよさのギャップが堪能できるのは、真剣にお芝居に向き合っていたからと胸を張る場面もあった。

國村は「格之進という人はものすごく几帳面な人。この人の碁に僕が演じるキャラクターは心酔しちゃう、そういう関係性です。そこからいろいろなことが起こってくる」と物語の流れを解説。「四角四面でカチカチの格之進が源兵衛をはじめ、いろいろな町人たちと関わる中で、いろいろなものを見るようになって…」と國村が格之進の変化に触れると「『おっさんずラブ』なんですよね」とニコニコの草彅。「本当にそれに近い!」と國村も反応。草彅は「性別を超えた人間愛の物語」と補足。國村が「まさにそう。碁敵っていう言葉があるけれど…」と話し始めたところで、「ごがたき?」とポカンとした草彅。「碁敵。碁を挟んだ敵同士」との國村の説明に「あー、その碁ね。なんかことわざなのかと思っちゃった“百聞は一見にしかず”みたいな」と苦笑いの草彅。「碁敵はイコール恋人に近いかな。人間としてのリスペクトから始まる物語なので」との國村の指摘を受け、草彅は「まさに。なるほど、碁敵、碁敵」と復唱し、格之進と源兵衛の関係性を表す言葉を取り込んでいた。

「市村さんとも『おっさんずラブ』がある!」と、格之進と長兵衛の関係性にも“ラブ”が存在するとした草彅。「そうそう!」とうれしそうに身を乗り出す市村の隣で、「親分とも『おっさんずラブ』があるね」と笑顔の國村。「つよぽんは、綺麗な格好で出てくるけれど、だんだん汚くなっていく…」と映画の中での格之進の身なりの変化を説明する市村に「一番汚いときに出会って…」と二人の出会いを振り返った草彅。「そこに何かを見つける、キュン!ってね」と指ハートを作った市村に大爆笑の草彅だったが、「僕はずっとキョンキョンにラブし続けている」と突如、役を離れ、個人的なキュンを告白。小泉は「いつも本当にありがとう」と自分への愛を語る草彅に感謝。「マジでずっとラブ。だからキョンキョンと國村さんが仲がいいのにかなり嫉妬していて…」と明かす草彅。「ヤキモチ妬かない!」との市村のツッコミに「だってずっと話してるんだもん!」と拗ねる草彅。

「京都でもごはん一緒に食べに行った!」との小泉の報告に「ズルい!」という草彅。「どうやったらキョンキョンとごはんに行けるの?どっちが誘うの?」と矢継ぎ早に質問する草彅に小泉は大笑い。「僕が誘うんだよ」とサラッと答えた國村に「えー!」と叫ぶ草彅。小泉が「國村さんは京都に詳しいから、“どこかおいしいお店ないですか?”って訊いて」と経緯を話し始めると、國村が「知ってるよ、一緒に行く?ってなる」とニヤニヤ。二人のやりとりに「なるほど。國さんからか。あ、昨日から國さんって呼んじゃってるけれど…」と話題が逸れそうになるも、小泉との食事を実現したい草彅は「大人としていろいろ知っておくことが大事なのか。まずは京都のおいしいお店とか」と頭に叩き込むような仕草を見せる。すると小泉が「だって、古着屋さんしか行かないでしょ?」と草彅の京都での過ごし方に触れると、「ちょっと狭いんや!」と興味を持つ範囲に國村からもダメ出しが。「確かに、狭いな」と納得した草彅は「テーマはそこだな」と頷き、笑いを誘っていた。

MCから小泉の興味のあることを知ることが大切とのアドバイスも。すると小泉が「韓国語を覚えたい。教えてください」とコメントし、草彅を優しくリード。「いいですね」とまんざらでもない草彅だったが小泉から「チョナン・カンさんに教えて欲しい!」と具体的にリクエストされると、「少しは教えられるかも…」とちょっぴり遠慮気味に。「具体化されると引くんだよね(笑)」との小泉の鋭い指摘に、「國さんついてきて!」と國村にすがるような仕草を見せた草彅に一同大爆笑。「韓国語でけへんで」と答える國村だったが「國さん、韓国作品たくさん出てるから大丈夫」と答えた草彅に「それは関係ないで~」と返し、流れるようなトークで会場を笑いの渦に包み込んだ。

撮影現場も舞台挨拶のように和やかで笑いが絶えなかったのかとのMCからの質問に「監督が穏やかな方なので。『孤狼の血』のようなバイオレンスを撮る方とは思えない!」と白石監督自身と作品とのギャップに触れる。草彅らのトークに大笑いしていた白石監督が「現場ではもっと集中していたはず」と話すと、小泉も「寡黙にやってましたよね」と続く。すると草彅は「そういうところはちゃんと保っておかないと、仕事なくなっちゃう(笑)。あいつ、ずっとふざけてるなってなっちゃうと商売あがったりなので。先輩方に比べたらまだまだだけど、芸能界でちょっと長くやってきたので、“侘び寂び”というのは意識しているつもりです」と草彅節を展開。侘び寂びではなくメリハリかな…といった声が会場からも漏れ聞こえていたが、草彅のトークはさらに続く。「京都の撮影所は銀幕のスター、高倉健さんも入り浸っていた場所。毎日、映画を観に行くように撮影所に通っていたそうなので、そんなことを思いながらやっていました」と撮影中は役に、作品に没頭していたこと、さまざまな思いや過っていたことも明かした。笑いいっぱいのトークの中に、こういったエピソードをサラッと挟むのも草彅らしさであり、舞台挨拶に足を運ぶ醍醐味だ。

長兵衛の寡黙さについて訊かれた市村は「僕は全然寡黙じゃない。寡黙(火・木)というより月水金!」と回答し、真面目なトークが続くと思いきや、今度は市村劇場の時間に。「すごいね、市村さん!」とウキウキの草彅に市村は「こういうことを言ってないと居心地が悪くて」とギャグを言わずにはいられない理由を明かす場面も。「今日は記者の方がいなくてよかったです」と笑いながら話す草彅に市村は「ほんとに。いたら“またやってる”って書かれちゃう」と大笑いした後、流れを変えようと「全国のみなさーん、観てますかー?」と中継先に手を振り始め、「旅公演っていうのがあるけれど、ここにいて全国に行ってるような気分になる」とさらにテンションを上げて大きく手を振り続けた。

「327館ってすごいよね」としみじみした草彅が「大型映画じゃん!今気づいた。『ミッドナイトスワン』のときはこんなになかったもん」と振り返る場面も。MCから「結構たくさんやってましたよ、中継で」とのフォローも。市村が「海外でも賞を獲っているし…」とコメントし、日本だけでなく海外からも注目度が高い作品だと話すと、白石監督が「イタリアで(第26回ウディネ・ファーイースト映画祭」)批評家賞(ブラック・ドラゴン賞)をいただきました。イタリアの人たちも侍映画観たいんだな、って思いました」と好感触だったことを明かす。「いずれ、全世界の映画館で(生中継)!」と目を輝かせた市村が「全世界のみなさーん!」とカメラに手を振ると、「いずれね。目標は高いほうがいい。(受賞は)すごく誇らしいし、幸先のいいスタートになりました」と草彅も一緒に世界に向けて手を振り、二人で「今のカメラはすごいね、みんなの顔が見えるよ」などとミニコントのようなやりとりで笑わせた。脱線気味のトークにハッとした草彅は「月水金や寡黙の話。今日は自由に話していい、ここでしか聞けないトークになっているのでいっぱい拡散してください」と、楽しい舞台挨拶のお裾分けも促していた。舞台挨拶とは全く違う雰囲気の映画が楽しめるとのMCのコメントに「こんな雰囲気の映画だったら、お客さん入らないよ」と笑いが止まらない草彅。市村も「僕が出てきたら、月水金の人出てきたーってなったら嫌だな」と発言を後悔するような表情を見せたが、会場の笑い声と拍手はより大きいものとなっていた。

拡散を意識してか、再び映画についてじっくり語る場面も。役作りのこだわりについて草彅は「僕は、あまりやらない。みなさんのオーラとグルーヴ感っていうのかな。みなさんの顔を見たらその役になれるというか。(芝居は)一人で作業するものではないと思うので、やっぱりみんなで作り上げていくものだし。いくら台本を読んでも、実際に目の前に役者さんがくると、台本を読んだときとは違う感覚がたくさん出てくる。その場その場で感じたことを表現するのがフレッシュだし、伝わるものがあります」と解説。アドリブはしないそうで、「セリフは台本通りにちゃんとやります。でも、台本に書かれてないものが湧き出ていいものになるとは思っているから、そうなりたいなと心がけてやっています」と丁寧に語った。

國村は「カメラが回っている間、考えているのはいかに自由でいられるかどうか。相手を感じながらリアクションが出る。それがお芝居というもの。10テイク撮ったら、10テイク違うものが撮れる。同じものは二つとないですよね、監督?」とのフリに白石監督は「まさにその通りです」と返し、「もちろん(10テイクの中から)チョイスはするけれど、ここにいる人たちは俳優としてはもちろんですけれど、人としてもいろいろな経験をされて、いろいろな意見を持っている。そういう懐の深さ、大きさがスクリーンに焼きついています。そういう形で大きく映画に貢献してくれるすごい俳優が集まってくれたすごい映画です!」と太鼓判。

衣装を着て、かつらをつけることで役になりきれるという市村は「役の気持ちが入った状態で、いざ、格之進を対峙したときに、つよぽん演じる格之進が僕が演じる長兵衛を見ることで役が出来上がる。格之進とのやりとり、呼吸をする中で、芝居というものは生まれてきます」と真面目にコメント。小泉も相手とのやりとりで芝居が生まれるとし、「さらに今回は時代劇。自分のセリフを言うための説得力として、知らない情報を埋めていくという作業はみなさんしていると思います。そんな中で古い映画に出会ったりして。この映画に出てくるまあるい橋が出てくるかっこいい映画にも出会いました。そういうふうに(役のための情報を)埋めていく時間も楽しかったりします」と語った。

小泉が挙げた映画に登場する橋には白石監督のこだわりが詰まっている。「吉原大門の前の橋は『緋牡丹博徒 お竜参上』(加藤泰監督)にでてくる橋。京都(撮影所)にその図面が残っていたので、映画的な表現を使って、ドラマチックに表現しています。映画の知恵が詰まったシーンなので、そんなところにも注目してほしいです!」と白石監督がおすすめすると小泉も「今回、初めて京都の撮影所に行って。やっと(映画俳優に)仲間入りした感じ。美術もプロフェッショナルでとても素敵でした」とよろこびを噛み締める。白石監督は貧乏長屋の障子紙の貼りものにもこだわりが詰まっていると話し、小泉も「江戸と関西での様式の違い。そういうものもちゃんと美術さんが作ってくれたことにも感動です!」と京都撮影所のこだわりにうなっていた。

最後に草彅は「キョンキョンとは29年前に共演して、市村さんとはドラマ『ホテルビーナス』以来20年ぶり。國村さんとはドラマ『ペペロンチーノ』以来3年ぶりで。今朝はそんな御三方と会うんだなっていろいろと思い出していて。僕はこの映画で何を伝えたかったのかなってちょっと真面目なことも考えている中で、僕と格之進の決定的な違いって何だろうって思ったときに“覚悟が違う!”って気づいて。生きる覚悟が僕にはない、格之進にはある」と話したところで、「あるよ」「覚悟だらけじゃない!」との言葉が登壇者から飛ぶと草彅は「ネガティブじゃなくて。切腹とか生きる覚悟、すなわち死ぬ覚悟。そういう覚悟を持って格之進は生きている。覚悟の度合いが違うって思ったんです。でも、シンプルに考えたら、毎日生きているってことは毎日命がけってこと。格之進から“お前は覚悟を持って生きているのか…”みたいに言われているように感じて。覚悟を決めて生きていく人生ってかっこいいじゃないですか。何気なく過ごしている日も覚悟を決めて命をかけて生きているわけだから、そういうマインドを新しく格之進に書き換えてもらったのかなと今日、思いついちゃって(笑)」と最新の発見に満面の笑みを浮かべた。

さらに草彅は「僕の作品を観て心を動かしてもらいたい。そういうことに命をかけてこれから生きていこうかな、ということを格之進から教わりました」と語る。そんな気づきも、共演者との出会いがあったからとし、「みなさんと長くおつきあいしてきた中から生まれたのかなって。便利な時代だけど、自分が何に命を燃やしているとか、少し考えてもらえるきっかけになればいいな、なんて、最後にそんなことを話したかったんです!」と自身の思いを真摯に伝える草彅に、この日一番の大きな拍手が贈られた

【提供写真、オフィシャルレポート】

『碁盤斬り』は全国で公開中
監督:白石和彌
主演:草彅剛
 清原果耶、中川大志、奥野瑛太、音尾琢真/市村正親
 立川談慶 中村優子
 斎藤工、小泉今日子/國村隼
配給:キノフィルムズ
©2024「碁盤斬り」製作委員会