『長崎―閃光の影で―』ワールドプレミア in HAPPINESS ARENAが7月6日(日)に長崎・HAPPINESS ARENAで行なわれ、菊池日菜子、小野花梨、川床明日香、松本准平監督が登壇した。
太平洋戦争末期の1945年、日本赤十字社の看護学校に通う17歳のスミ(菊池日菜子)、アツ子(小野花梨)、ミサヲ(川床明日香)は、空襲による休校のため長崎へ帰郷。8月9日11時2分、長崎市に原爆が落とされたことで、家族や恋人と過ごす彼女たちの日常は一変する。久しぶりに帰郷した長崎で過酷な体験をすることになる看護学生の田中スミを演じるのは、本作が映画初主演となる菊池日菜子。あどけなく清らかな存在感を放つ等身大の姿は、戦争の落とす暗い影との対比を浮かび上がらせる。スミの幼馴染であり看護学校の同級生・大野アツ子を演じるのは小野花梨。確かな演技力に定評のある小野が、本作では人一倍強い信念を持って被爆者救護にあたる少女を熱演。同じくスミの幼馴染で看護学校の同級生・岩永ミサヲ役に川床明日香。本作では、クリスチャンである自らの信仰心と現実のはざまで葛藤する少女という複雑な役どころに挑戦する。
映画の舞台である長崎で開催されたワールドプレミア。亡き祖父から譲り受けたというジャケットを着用して登壇した松本准平監督は「僕はあの長崎の時津町の出身で、亡くなった祖父が被爆者でした。映画を始めた時に、いつか長崎原爆のことを描きたい、それを通して祖父のことを描きたいというふうに思って、今日この場に今日立つことができています、 ありがとうございます。今日着ているこのジャケットは夏物ではないんですが、これは祖父から譲り受けた形見です。今日は祖父と一緒に、この場を見届けられればと思って着てきました」と感慨深げに挨拶した。
MCによる質問では、キャストたちが“役とどう向き合ったか”について語る時間が設けられた。菊池は「撮影期間中は、体も心も一度も休まることがなかった」と当時を振り返り、「1945年にたどり着けない不安、田中スミに近づけない感覚にさいなまれた」と語った。そのうえで「自分ができる最大限の努力は、当時を想像し続けること。思考を止めないことだった」と真摯な姿勢をのぞかせた。
小野は「役を通して何かの“光”になれるなら」という思いを抱いていたと語り、「全員が心を一つにして、日々撮影に向き合っていた」とチームの結束の強さを感じさせるエピソードを披露。川床も「80年前という時間の隔たりを埋めるには、自分一人の想像力だけでは足りなかった」と葛藤を吐露しつつ、「仲間と信頼し合いながら、丁寧に一つ一つのシーンに向き合った」と誠実に取り組んだ様子を明かした。
イベント前日には、出演者らが実際の被爆者と面会する機会もあったという。その中で、キャスト陣が受け取った“記憶のバトン”についても、それぞれが思いを語った。菊池は「これまでは爆心地周辺の惨禍ばかりに目を向けていたけれど、被害は“あの瞬間”だけではなく、今も続いていると気づかされた」と深く感銘を受けた様子で語り、「平和を願い、考え続ける責任が自分にもあると感じた」と決意を新たにした。
小野は、90歳の被爆者から聞いた「つらかろうが事実を伝え続けなければならない」という言葉にハッとさせられたと言い、「受け取ったものをしっかりと届けていかなければならない」という覚悟を語った。川床も「“平和の種を植え続ける”とおっしゃっていて、これから自分たちが受け継いでいかないといけないな」と、胸の内を語った。
本作の制作背景についても、松本監督自らが言及。1988年に黒木和雄監督が手がけた『TOMORROW 明日』の“原爆投下前夜”を描いた作品に触れつつ、「今回は“その後”を描くことを託された」と語った。実在の看護学生の手記をもとに構成されたストーリーは、「すべてを破壊する原爆の下で、人間の命を救おうとした人々を描くことは重要なことだと思った」という強い思いから生まれたという。
また、この日、会場ロビーには島原出身の彫刻家・小鉢公史氏が本作に共鳴して制作した、一本のクスノキから作り出された看護婦の木造が展示された。監督は「こうして人の思いが共鳴し、つながっていくのが映画の力」と語りかけ、観客の心を温かく揺さぶった。
そして、印象的だったのはイベント前に訪れた“被爆クスノキ”に関するエピソード。菊池は「木漏れ日の美しさに、生きていることのありがたさを痛感した」と話し、小野は「土地と人に共通するような温かさと力強さを感じた」と語った。川床も「これまでも、そしてこれからも、長崎を守ってくれる存在だと思えた」と言い、松本監督は「クスノキも一人の“被爆者”だと思う」と述べ、長崎の地に根差す“命”へのリスペクトをにじませた。
後半には、大石賢吾長崎県知事、鈴木史朗長崎市長が、花束プレゼンターとして登場し、4人に熱いメッセージを送った。最後に菊池は「本日は足を運んでいただき、本当にありがとうございます。この映画『長崎-閃光の影で-』は、今日登壇している私たち4人だけでなく、多くのキャスト・スタッフ、そして制作にご協力くださった方々の支えによって完成した作品です」と語り、「私の見た限り、誰一人として1945年の夏を妥協せず、心から真摯に向き合い続けていた」と、作品に込めた全員の思いを代表して伝えた。さらに「このあと上映される109分間、そしてエンドロールの最後までじっくり観ていただけたら嬉しいです。その時間が、ここにいる皆さん、そして世界にとって、実りある時間になることを心から願っています」と言葉を結び、万感の思いを込めて舞台を後にした。
【提供写真、オフィシャルレポート】
『長崎―閃光の影で―』は2025年7月25日(金)より長崎で先行公開、8月1日(金)より全国で公開
監督:松本准平
出演:菊池日菜子
小野花梨、川床明日香
水崎綾女、渡辺大、田中偉登、加藤雅也、有森也実、萩原聖人、利重剛/池田秀一、山下フジヱ
南果歩 美輪明宏(語り)
配給:アークエンタテインメント
©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会