石川慶監督×広瀬すず主演『遠い山なみの光』の場面写真が解禁された。
2017年にノーベル文学賞を受賞し、「日の名残り」「わたしを離さないで」など、映画化作品でも非常に高い評価を受ける作家カズオ・イシグロが、1982年に綴り、王立文学協会賞を受賞した⻑編小説デビュー作品「遠い山なみの光」。自身の出生地⻑崎を舞台として繰り広げられる本作は、戦後間もない1950年代の⻑崎、そして1980年代のイギリスという、時代と場所を超えて交錯する“記憶”の秘密を紐解いていくヒューマンミステリー作品。監督を務めるのは石川慶。主人公の悦子を務めるのは、抜群の演技力と表現力で映画・ドラマと幅広く活躍する広瀬すず。
今回解禁されたのは、思い出の詰まったイギリスの自宅の売却を決め、荷物を整理していた中、次女のニキに乞われ、ずっと口を閉ざしてきた過去の記憶となる戦後間もない長崎で出会った佐知子という女性とその幼い娘と過ごしたひと夏の思い出を窓辺で静かに語りだす悦子の姿や、悦子とイギリス人の父の間に生まれ、大学を中退して作家を目指すニキとイギリスの自然をバックに二人並ぶ親子でのショット、さらに何かに向かって深い眼差しを向ける悦子の憂いを秘めた表情がとても印象的なアップのカットなど、物語の軸となる難しい役どころとなった「悦子」をミステリアスかつ奥深く演じ、「悦子が現れた」とイシグロ氏も絶賛した吉田の魂の演技に期待が高まる場面写真となっている。
悦子役のキャスティングは、製作に加わったイギリスのプロダクションNumber 9 Films主導でオーディションが行われたが、たくさんの候補者がいる中で、決め手に欠けていた。そこで石川監督から「吉田羊さんにお願いしたい」という要望が出た。吉田ほどのキャリアを積んだ俳優にオーディションへの参加を依頼するのはためらわれたものの、吉田はすぐに英語の台詞で演じるテープを送ったといい、石川監督と日英プロデューサー陣がテープを見て、全員一致で即決となった。
撮影前から単身イギリスに入り、数週間ホームステイをして英語のレッスンを受けるなど渾身の想いで本作に挑んだ吉田。はじめての全編英語での演技という難しい環境にもかかわらず、撮影前の滞在で生活者としての視点を得たことで英国チームのスタッフたちにも自然に溶け込み、常に現場を引っ張っていたという。
そんな吉田に対して、石川監督は「頼りっぱなしでした。長崎パートの映像をすべて吉田さんに送って、長崎の悦子から30年後の悦子を吉田さんなりに作ってくださいとお願いしました。内心、相当な無茶ぶりだと反省していたのですが、僕がイギリスに着いた時には、非常に説得力のある悦子を既にご自身の中で作ってらっしゃったので、さすがだなと安心しました」と語る。
さらに撮影現場に訪れた原作者のイシグロは、吉田を見て「悦子が現れた」と喜んだという。吉田は白玉粉と抹茶の粉を現地で調達して日本のお団子を作りイシグロ氏とスタッフにふるまったといい、「演技に集中しながらも、そういう海外の現場でのフレッシュな体験を全力で楽しまれている。素敵だなと思いました」と福間プロデューサーも語る。
また、『愚行録』をはじめ石川監督の作品が好きで以前より観ており、たまたまある映画イベントで以前、石川監督に会って以来その人柄に触れ『いつか一緒にお仕事がしたい』と目標にしていたという吉田。そんな中、本作のオファーを受けた時の心境について「自分の人生にこんな奇跡が起こるのかと思うほど本当に嬉しく、また今回イギリス側に私の大好きな映画『キャロル』を作られたNumber 9 Filmsが入られると聞いて、本当にいまだにふわふわして現実味がないというのが正直なところです」と、現場で喜びの言葉を口にしており、さらに本作について「自分らしく生きようとする女性たちの逞しさが美しく胸に響いて、悲しみと共にある希望に、すごく勇気づけられる映画だと思いました」と語る。
また石川監督の脚本は「原作の雰囲気をそのままに、石川さんならではの不穏さや歪さも加わって幻想的でありながらもリアルな手触りがあって。過去と現在、夢と現実を行き来しながら境界線が曖昧になっていく感じがとても不思議で面白い」とも。
さらに「私の父が長崎の出身で、父が5歳の時に原爆を経験していますから、原作を拝読した時に真っ先に浮かんだのがやはり父のことで、その長崎にルーツを持つ私だからこそ感じられるものもあるのかなと期待しながら、今回この作品に入らせていただきました」と語っており、吉田にとってまさに運命的な役柄、作品となったことがコメントからうかがえる。終戦間もない長崎という、まだ過去にしきれない「傷跡」と未来を夢見る圧倒的な「生」のパワーが渦巻いていた時代を生き抜いた女性たちの姿を鮮明に描き出す。先の見えない時代を生きる私たちに前へ進む勇気をくれる感動のヒューマンミステリー『遠い山なみの光』は9月5日(金)より公開。
『遠い山なみの光』は2025年9月5日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開
監督・脚本・編集:石川慶
出演:広瀬すず、二階堂ふみ、吉田羊、カミラ・アイコ、柴田理恵、渡辺大知、鈴木碧桜、松下洸平/三浦友和
配給:ギャガ
©『遠い山なみの光』製作委員会