石川慶監督×広瀬すず主演『遠い山なみの光』の本編映像が解禁された。
2017年にノーベル文学賞を受賞し、「日の名残り」「わたしを離さないで」など、映画化作品でも非常に高い評価を受ける作家カズオ・イシグロが、1982年に綴り、王立文学協会賞を受賞した⻑編小説デビュー作品「遠い山なみの光」。自身の出生地⻑崎を舞台として繰り広げられる本作は、戦後間もない1950年代の⻑崎、そして1980年代のイギリスという、時代と場所を超えて交錯する“記憶”の秘密を紐解いていくヒューマンミステリー作品。監督を務めるのは石川慶。主人公の悦子を務めるのは、抜群の演技力と表現力で映画・ドラマと幅広く活躍する広瀬すず。
今回解禁された本編映像は、1950年代の長崎。蝉しぐれのなか、悦子がお盆にお茶をのせて、新聞を読みながら食事をとる夫・二郎の前にそっと差し出すシーンから始まる。新聞には「幼児絞殺 三人目」と陰惨な事件の記事。二郎は苛立ちを隠せず、「正気の沙汰じゃなか」と吐き捨てる。戦争で右手の指を失くし、茶碗を持つことも不自由な二郎は、悦子の差し出す漬物に「しょっぱすぎじゃなかか」と言いながらも、子を宿す妻・悦子をいたわり「君だけの子じゃなかけん」と優しく声をかける。悦子は、二郎に代わってネクタイを締めてやり、会社へと送り出す。朝の何気ないひとときに、二郎の傷痍軍人として生きていく思い、家族を思いやる心――そして自分の心に蓋をしながら夫の世話を甲斐甲斐しくやく悦子の抑圧された心情が、ありありと映し出されたシーンだ。
二郎が出かけ、1人になった家で押し入れからそっと取り出したのは、悦子が集めた美しい品々を収めたバスケット。窓辺に腰かけ、風鈴の音に耳を澄ましながら一つひとつを愛おしそうに眺める。それらは彼女を、いまの暮らしから憧れの「遠いどこか」へと誘う夢のかけらだった。ふと、下の団地から住民の声が聞こえる。視線を上げた先で目にしたのは、河岸のバラック小屋の前で、さきほどまで見つめていた雑誌から抜け出したようなモダンな装いの女性が、米兵を自宅へ迎え入れていた――。戦後間もない長崎で出会った、佐知子という女性とその幼い娘と過ごしたひと夏の思い出。いままさにその物語が始まる、そんなひと時を捉えたシーンとなっている。
悦子の娘、ニキが母の物語の中に見つけた〈嘘〉とは?物語が終盤に差し掛かるとき、我々は予想もしなかった真実に驚き、心を大きく揺さぶられることになる──。終戦 80 周年となる 2025 年にスクリーンに描かれるこの物語は、
終戦間もない長崎という、まだ過去にしきれない「死」の記憶と、未来を夢見る圧倒的な「生」のパワーが渦巻
いていた時代を生き抜いた女性の姿を通し、先の見えない時代を生きる私たちに前へ進む勇気をくれる。
本編映像
『遠い山なみの光』は2025年9月5日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国で公開
監督・脚本・編集:石川慶
出演:広瀬すず、二階堂ふみ、吉田羊、カミラ・アイコ、柴田理恵、渡辺大知、鈴木碧桜、松下洸平/三浦友和
配給:ギャガ
©『遠い山なみの光』製作委員会