『ミーツ・ザ・ワールド』の完成披露舞台挨拶が9月15日(月・祝)に都内で行われ、杉咲花、南琴奈、板垣李光人、渋川清彦、くるま(令和ロマン)、松居大悟監督が登壇した。
歌舞伎町を舞台に、擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」をこよなく愛するも自分のことは好きになれない27歳の主人公の新たな世界との出会いを描いた『ミーツ・ザ・ワールド』。原作は、第35回柴田錬三郎賞を受賞した金原ひとみの同名小説。自著の映画化は、第130回芥川賞を受賞したデビュー作「蛇にピアス」以来、17年ぶりとなる。監督を務めるのは松居大悟。撮影は本作の舞台である歌舞伎町で敢行した。主人公・由嘉里を演じるのは杉咲花。擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」の推しカプに全力で愛を注ぐも、自分を好きになれず、仕事と趣味だけで生きていくことへの不安と焦りを感じる等身大の主人公の姿を体現する。由嘉里が歌舞伎町で出会う住人、希死念慮を抱えた美しいキャバ嬢・ライを南琴奈、既婚者で不特定多数から愛されたいホスト・アサヒを板垣李光人、人が死ぬ話ばかりを書いている毒舌な作家・ユキを蒼井優、街に寄り添うBAR『寂寥』店主・オシンを渋川清彦が演じる。
自分のことを好きになれないヒロインの由嘉里を演じた杉咲は、本作への出演を決めた理由について「いま共感できることや誰かとの共通ポイントをフックに人と人がつながっていくことが重要視されているような空気感を感じるんですけど、そこに逆説を唱えるように、圧倒的な“わかり合えなさ”を描きながら、それでも何とか人と人って近くにいれるんじゃないか?という祈りのようなものが描かれているところがすごく素敵だなと思いました」と説明する。
そんな杉咲の言葉に松居監督も深くうなずき、映画化することを決めた理由について「いろんな考え方の人がいるのに、自分の考え方と違うと『そうじゃないよ』みたいなことになるのが、ちょっと息苦しいなと思っている中で金原さんの原作を読んで、『それぞれ考え方は違うけど、でもそれでいいじゃん! 歩んでいこうよ』みたいな感覚になって、それはいまの時代に映画として届けるべきだと感じて決意しました」と明かす。
由嘉里が歌舞伎町で出会うキャバ嬢のライ役をオーディションで勝ちとった南は、上映前の舞台挨拶に「緊張しています(苦笑)」と初々しく語りつつ、オーディションからここまでの日々について「オーディションの台本をいただいて、作品の概要などを聞かせていただいて、一瞬でこの世界に惹かれ、魅力を感じて『私もこの世界に入りたい』と強く思いました。実際のオーディションにも杉咲さんがいらっしゃって、一緒にお芝居をさせていただいて、オーディションであることを忘れてしまうぐらい、本当に楽しくてのびのびとやらせていただきました。(キャスティングが決まった時は)私はすぐには実感がわかなくて、私よりもマネージャーさんがすごく喜んでくれて、それもすごく嬉しかったですし、撮影中も自分がいま、この場にいるのがすごく不思議というか、夢のような時間でした」と充実した表情でふり返る。杉咲は、オーディションでの南について「本当に息をするようにそこにいて、セリフを発している姿に撃ち抜かれてしまいました。なんて魅力的な人なんだろう! と翻弄されっぱなしでした」と称賛を送る。
板垣は、俳優人生で初めて既婚者の役、しかもホストを生業とするアサヒを演じたが、役作りに際して「そもそもホストという職業、ホストクラブというものがどういう場所なのか? というのが未知だったので、そこを知るところからだと思って、実際にお店へ取材に伺って、そこでどういうルーティーンでみなさんが生活をされているのか? どういう準備があるのか? ということについてお話を聞くところから始めて、実際にシャンパンコールとかもしてもらいました」と実際のリサーチを通してアサヒという役柄をつくっていったと明かした。
渋川は、歌舞伎町で全ての人に寄り添うバー寂寥の店主オシンを演じたが、撮影はセットではなく、実際に新宿のゴールデン街にあるお店の中で行なわれたという。松居監督は「今回の映画は、場所に嘘はつかずに撮ろうということで、ゴールデン街を回ってイメージに合ったお店を選びました」と意図を語ったが、実際に撮影に参加した渋川は「狭いし、エアコンもあまり効かないし、人数も多くて、撮影は7月だったんですけど、ヤバいんじゃないかってくらい暑かったです」と苦笑交じりに述懐する。渋川さんが立っていたカウンターの中は冷蔵庫のモーターの位置などの関係でひときわ暑く、本番では音の関係でエアコンも切らなくてはいけないなど、かなり過酷な状況だったよう。
由嘉里の母親役を演じた筒井は、完成した映画を見て、松居監督と話をしながら「ポロポロと涙が出てきた」という。「生きていることは楽しいし、しんどいし、危ういし、そういうものを全部含めて、それでも懸命に生きていく――それがドーンと胸にきました。悲しいとかじゃなくて、魂が洗われたような気持ちで泣いちゃって、恥ずかしくてすぐ逃げました(苦笑)」と照れくさそうに明かしたが、松居監督は「(その時の筒井さんの表情が)忘れられないです。筒井さんの言葉を聞いて、自分も泣きそうになりました」としみじみと語った。
そして、由嘉里が合コンで出会う男を演じ、映画初出演を果たしたのが、令和ロマンのくるま。冒頭の挨拶から、聞き取れないほどの小さな声でボソボソと話し始め、すぐさま「小さすぎる!」とツッコミを浴びて笑いを誘う。普段の主戦場であるバラエティ番組の現場と比べて映画の撮影現場は「人が多いなと思いました。カメラの周りにすごいたくさんの人がいて新鮮でした」と真面目にふり返ったかと思えば、この日の衣装について「なんで僕、板垣さんとレザーが被ってるんだろう…? ってすごく恥ずかしくなってきて、しゃべりたいと思っていたことが全部飛びました。なんでこんな男前の人と被ってるんだろうと…」と悲痛な表情を浮かべる。板垣が「今日はペアルックで(笑)」とフォローするも、くるまは「ちょっと確認不足で、舞台袖で絶望的でした…。嘘だろ? って」とボヤきを連発し会場は爆笑に包まれていた。
ちなみに、そんなくるまとの共演について、杉咲は「本当に素敵で、くるまさんの思考から生まれた言葉のように全てのセリフが聴こえてきて、どうやったらこんなふうにできるんだろう? と思いながら、ご一緒できて嬉しかったです」と絶賛! 松居監督も、台本にセリフがない部分もくるまがアドリブで見事な演技を見せていたと手放しで称えていた。
母娘役を演じた筒井と杉咲も今回は初共演となったが、筒井が杉咲について「お芝居に対してひとつも嘘がなくて、ちょっとした動きの気持ち悪さにもすごく敏感で、この若さでお芝居に甘さがないことにリスペクトを感じました。楽しかったです」と語れば、杉咲も「こちらこそです! たくさん話かけてくださって、シーンの中では張りつめているけど、それ以外では『こういう時間が親との関係できっとあったんだろうな…』とイメージさせてもらえるような温かい時間をつくってくださって、嬉しかったです」と語るなど、撮影の合間のやりとりからも母と娘の関係を丁寧に築き上げていったことをうかがわせた。
この日は、擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」に全力で愛を注ぐ由嘉里にちなんで、登壇陣がそれぞれ「最近の推し」を発表。杉咲は「HANA」と書かれたフリップを見せ、オーディション番組「No No Girls」から生まれたガールズグループで自身と同じ名前の「HANA」への愛を熱弁。ファンクラブにも入っていることを明かし「本当に努力を惜しまずにどんどん内側から発光していく姿も素晴らしいですし、あるメンバーの方が『一番大事なのは、頑張ることじゃなくて自分を大事にすることだと思います』と言っていて、人一倍努力することがどれだけ大事かということをオーディションを通して痛感してきたはずの7人の女の子たちがそんなことをファンの前に立って言えるって素晴らしいなと思って、めちゃめちゃ応援してます!」と推しへの愛を熱く語ってくれた。
南の最近の推しは「蕎麦」とのことで「今年の夏は1日に1食は食べていたくらいで、今日のお昼も蕎麦を食べました」と明かす。同じく食べ物を推しとして紹介してたのは板垣。「アスパラガス」が推しだと明かし「ごはんを食べに行くと、アスパラガスのメニューはだいたい頼んでる」、「小さい頃、近所に自生していたアスパラガスを持って帰ったりしてました」と長きにわたるアスパラガス愛を明かしていた。
渋川は、女性ロックバンド「おとぼけビ~バ~」、筒井はピン芸人の「ほいけんたさん」とそれぞれ意外な推しを明かし、推しのポイントを熱く語り会場をわかせる。
そして、くるまは「区」と書かれたフリップを掲げ「僕はアイドルや野球も好きで、グッズを買ったりもするんですけど、一番課金してるものは何だろう? と思ったら、区民税でした。相当に区を推してるなと思って、税金がどんどん上がってくると、区の道とかに対する愛着が増してきてて『我が道』、『我が図書館』、『我が保育園』みたいな感じで、自分の税金が使われていると思うと愛着がわいて、公園で写真を撮ったり、映画『PERFECT DAYS』みたいな過ごし方をしています」と予想の斜め上を行く“推し”を明かし、笑いを誘っていた。
最後に監督は、「今日初めて見ていただく皆さんに是非ミーツ・ザ・ワールドの応援団になってほしいです。ミーツ・ザ・ワールドを少しでも遠くに届けたいなと思っているのでどうぞよろしくお願いします」と観客に呼びかけた。主演の杉咲は、新たな出会いが導く世界を描いたこの映画のこの日の舞台挨拶に中学時代の同級生たちが来場していることを明かし「そのうちのひとりが、中学に入学したばかりの頃に、離れた席からじっとこっちを見ていて『何だろう?』と思っていたら、授業が終わった時に『友達になりたいです』という手紙を渡しに来てくれたんです。すごくびっくりして、ちょっと怖いなと思ったんですけど(笑)、そのときに関わろうとしてくれたから、14年間が経ったいまもこういうふうに友達でいられているんだなと思います。人との出会いってこういう感じだったかもと思い出したりしていました。由嘉里にとってライがそうだったように、初めて会った人に対してドキドキしたりすることってあると思います。世界にはいろんな特徴とかルーツを持った多様な人たちがいて、出会いのときに『ちょっと怖いな』と思ってドキドキするのは、ただその人のことを知らないだけで、自分が無知だからというそれだけで、本当は全然怖いということじゃないんだよなって考えたりしていました。『わかり合えないこと』も人と人同士だと、たくさんあると思います。それでも相手のことを知ろうとしてみたら、かわいらしいところや嫌いになれないところが見つかっていくのかも…ということを考えさせてくれるような、エールを送ってくれるような映画になっていたらと思います」と本作に込めた思いを語り、会場は温かい拍手に包まれた。
【提供写真、オフィシャルレポート】
『ミーツ・ザ・ワールド』は2025年10月24日(金)より全国で公開
監督:松居大悟
出演:杉咲花
南琴奈、板垣李光人
くるま(令和ロマン)、加藤千尋、和田光沙、安藤裕子、中山祐一朗、佐藤寛太
渋川清彦、筒井真理子/蒼井優
(劇中アニメ「ミート・イズ・マイン」)村瀬歩、坂田将吾、阿座上洋平、田丸篤志
配給:クロックワークス
©金原ひとみ/集英社・映画「ミーツ・ザ・ワールド」製作委員会