芥川賞作家・村田沙耶香のベストセラー小説を実写映画化した『消滅世界』の予告映像と本ビジュアルが解禁された。

原作「消滅世界」は、現在累計170万部を超える芥川賞受賞作「コンビニ人間」直前の2015年12月に刊行された長編小説。超少子化の先―「性」が消えゆく世界で激動する「恋愛」「結婚」「家族」のあり方に翻弄される若者たちを描いた本作は、「常識」という枠の中でもがく現代の私たち自身を映し出した合わせ鏡のような作品。MTV出身で国内外の様々なアーティストのライブやミュージックビデオ、CM、ショートフィルム、大河ドラマのドキュメンタリーなど多岐にわたるフィールドで活躍する映像ディレクター・川村誠が脚本とともに映像化に挑む。独自の世界観を築いてきた映画的・音楽的感性を存分に活かして、本作では繊細かつ耽美な異世界観を追求する。主人公・雨音役を演じるのは蒔田彩珠。雨音の夫・朔には栁俊太郎。

結婚生活に性愛が入ることを禁じられた世界で、愛し合った夫婦から生まれた少女が、自分の周りにある“普通”と自分から湧き出る欲情に向き合っていく物語。SFの空気をまとい、“普通”や“正しさ”という問題に独自の視点で切り込んでいく村田沙耶香ならではの世界観。今回、そのエッセンスを鋭く抽出した予告映像が完成した。

予告映像では、観る者の「正常」を試すような世界設定と物語、性が消えつつある日本の衝撃的未来が鮮烈なビジュアルで提示され、アニメーション作家Wabokuデザインによるストーリーを牽引するアニメキャラクターの造形や、世界で注目のバンドD.A.N.による本作のために書き下ろされた主題歌「Perfect Blue」も公開されている。

舞台は、人工授精で子どもを産むことが定着した近未来の日本。夫婦間の性行為はタブーとされ、恋や性愛の対象は“家庭の外”の恋人か、二次元キャラが常識になっていた。それは“両親が愛し合った末”に生まれた子は異常とされる世界。主人公の雨音(蒔田彩珠)は、「お前、人工授精じゃないの? 気持ち悪い」と学校で虐められ、「お母さんは、なんで普通じゃない方法で私を妊娠したの?」と母親の雫(霧島れいか)に嫌悪を抱き、「私はお母さんとは違う。みんなと同じなんだ」と自分に言い聞かせていた。

雨音の性愛の対象は二次元キャラのラピス。自分がラピスに恋をしていると実感する時、自分は母とは違うのだ、周囲と同じく正常だとわかって喜びを感じる雨音。「初めて恋をすることを教えてくれた」ラピスを同じく愛する同級生の水内(結木滉星)と特異な性関係を持つようになる雨音は、水内との身体のつながりに心が満たされていく。

大人に成長した雨音は、性愛を持ち込まない清潔な結婚生活を望み、夫以外の男性やキャラクターと恋愛を重ねていた。“普通”であるはずの夫と結婚したものの、その夫は「身体が反応してしまって…」と“妻”である雨音に性行為を求める。それは、この世界では“近親相姦”と非難される行為。夫が許せなかった雨音は離婚を選択する。

間もなく、元夫とは正反対の朔(栁俊太郎)と出会う。元夫から非常識な行為を受けた雨音に心からの同情を寄せる朔。その朔も、雨音との結婚を意識しながらも他の恋人がいる。そんな今の世界の常識を「あぁ嫌だ。汚らわしい。ちゃんと愛し合って子供を作りなさい」と叱責する雫だが、雨音は朔と結婚。性愛とは無縁の穏やかな結婚生活を楽しんでいた。

その頃、住民全体で計画的に人工授精、出産、管理を行い、住民みんなで子育てをする実験都市「エデン」が千葉に作られていた。そこは恋愛も性も完全に無い世界。雨音と朔にとってまさに“理想の楽園”に居を移す二人。朔から「二人の遺伝子を受け継いだ健全な子を産むんです。もちろん人工授精で」と持ちかけられた雨音は「朔くんとの子なら作りたい」と同意。だが、その人工授精による妊娠が、二人の関係を狂わせていく。「私ね、怖いの。どこまでも“正常”が追いかけてくる」と困惑を見せはじめる雨音。果たして“エデン”は、本当にユートピアなのか。それとも、ディストピアなのか⎯⎯⎯。

予告映像

予告編にも登場する、主人公・雨音が恋をするアニメキャラクターの少年“ラピス”のキャラクターデザインを手掛けたのは、ずっと真夜中でいいのに。や、Eve、ポーター・ロビンソンなど数々のMVで知られるアニメーション作家のWaboku。本作が描く映像世界と、Wabokuが描くキャラクターが高い親和性を示し、物語の中核のひとつとなる“二次元の恋”にリアリティを与えている。自身の作品について「共通するキーワードは“退廃”と“寂しさ”」と語るWabokuと、「その退廃的な世界観が本作に非常に合う気がした」と語る川村監督。二人の才能が、視覚的ケミストリーを結実させている。

今年作家活動10周年を迎え、記念個展『10-COUNT』が12月9日から開催されることでも注目を集めるWabokuは、ラピスの「デザインに取り掛かる前に、宙を見つめて小一時間思案していた」という。「普通のアニメキャラにはない奥行きが少しでも生まれ、誰かの心に届く事を願っています」とコメントを寄せた。

川村監督も「作品のコンセプト、物語に強く共感いただいて作画いただけたことが何よりの喜び」と語り、「次第に漂白されていく人間の世界とは裏腹に、色彩が失われた世界で色を取り戻していくラピスの造形は、主人公の葛藤と希望を象徴するものとなりました」と雨音が愛するラピスに息を吹き込んだWabokuへ賛辞を贈った。

『消滅世界』は2025年11月28日(金)より新宿シネマカリテほか全国で公開
監督・脚本:川村誠
出演:蒔田彩珠、栁俊太郎
 恒松祐里、結木滉星、富田健太郎、清水尚弥、松浦りょう、岩田奏
 山中崇/眞島秀和/霧島れいか
配給:NAKACHIKA PICTURES
©2025「消滅世界」製作委員会