『君の顔では泣けない』の公開記念舞台挨拶が11月14日(金)にTOHOシネマズ新宿で行われ、芳根京子、髙橋海人、林裕太、坂下雄一郎監督が登壇した。

物語の始まりは、高校1年生の夏。プールに一緒に落ちたことがきっかけで、心と体が入れ替わってしまった坂平陸と水村まなみ。これは何かの間違い、と元に戻ることを信じその方法を模索し奔走する。しかし、誰にも言えない秘密を抱えた陸とまなみは、15年経っても元には戻らなかった。人生の転機を入れ替わったまま経験していくふたり。しかし30歳の夏、まなみは「元に戻る方法がわかったかも」と陸に告げる。主演は芳根京子。入れ替わったことをなかなか受け入れられないまま馴染めず、不器用でありながらも誠実に生きようとする主人公・坂平陸を、揺れ動く衝動と痛みをもって演じ切った。そして、陸と入れ替わってしまう水村まなみ役には髙橋海人。心に【まなみ=女性】である本音を隠し、うまく【陸=男性】として気丈にふるまう難しい役どころを、柔らかな眼差しと感情で体現した。監督は『決戦は日曜日』(2022)の坂下雄一郎。リアルとフィクションの境を繊細に編み、入れ替わったまま大人になっていくふたりの時間を切なく、そして瑞々しく描き出している。

イベントではサプライズで、原作者・君嶋かなたから寄せられた手紙がMCによって代読された。自身のデビュー作が映画化されることへの喜びと、原作者として抱いていた正直な不安から綴られ、「自分の生み出した作品が果たして納得いく形になってくれるだろうか」と思いを吐露。しかし、その不安は試写を観て一気に吹き飛んだといい、「僕が思い描いていた映像を遥かに飛び越えた作品を作り上げてくれました」と坂下監督への感謝が述べられた。

芳根と髙橋には惜しみない賛辞が送られ、 水村まなみを演じた髙橋について「原作ではほとんど内面が見えない難しいキャラクターだったにもかかわらず、感情豊かに表現してくれていました」と称賛。そして、坂平陸を演じた芳根に対しては「とても魅力的に、人間臭く演じてくださっていて、坂平陸のことをますます好きにさせてくれました」と述べ、「芳根さんの陸を見て、もっと陸のことが書きたいと強く感じてしまいました」という、原作者としてこの上ない言葉で締めくくられた。

この手紙を受け、芳根は「嬉しいです」と声を震わせながら感謝を口にした。「やっぱり原作者の先生がどう思われるかって、私たちも怖い部分でもある」と正直な胸の内を明かし、「『もっと陸を好きになる』なんて、なんて嬉しいんだろう、そんな光栄なことあるんだって。その先の陸、私もぜひ読ませてもらいたいなと」と感無量の面持ちで語った。

髙橋も「自分たちの作品を出す前に、作る側の人たち全員が満足した気持ちで出すことが一番エンターテインメインととして素敵な形」と語りつつ「すごくハードルが高いのが原作の先生を納得させることでもあると思う」といい、「そう思ってくださっていることがめちゃくちゃ嬉しかったですし、胸を張って皆さんに観ていただけるなと思いました」と、晴れやかな表情を見せた。

また、髙橋は「僕がこの作品を観させていただいた時に、自分の人生で選択する分岐点ってすごいたくさんあると思うんですけど、それを自分の考えで、自分の体をもって進んでいけることって、とてもしあわせなことなんだなっていうことを気づかされて」と、作品から受け取った深いメッセージを観客に伝えた。そして、「この映画を観ていただいた方が、前向きな気持ちで映画館を出て、これからの人生についてだったりとか、今までの人生についてだったりとか考えていただけると嬉しいなと思います」と呼びかけた。

芳根は「この作品を少しでも大切に思ってくれる方がいらっしゃるといいなとか、少しでも皆様の心に残るといいなと、今はすごくそう思っています」と感慨深げな様子で、続けて撮影を乗り越える上で大きな支えとなった髙橋へ向き直り、「本当に、まなみが髙橋くんでよかったなって」と伝えた。

また、芳根は「撮影中、すごい不安で。終わってからもずっと不安で。取材が始まっても、ずっと心にあった不安が、髙橋くんと一緒にいろんな取材を受けさせてもらう中で、なんか少しずつ氷が溶けていく感覚というか。髙橋くんとだったら大丈夫だって思えた」と感謝を伝えると、髙橋も「こちらこそです」と深く頷いた。

そんな中で感極まる芳根に、髙橋がハンカチを差し出したものの芳根は「一旦大丈夫、ありがとう」と返し、会場は笑いに包まれた。続けて芳根は「また機会があったら、今度はどんな役でご一緒できるのかなって、すごく楽しみになりました」と再共演を誓うと、再び髙橋へ「本当にありがとうございました」と改めて感謝を伝えた。

最後に芳根は「今日からこの作品の旅が始まります。どうか、見守っていただけると、応援していただけると嬉しいです」と力強く語りかけ、舞台挨拶を締めくくった。

【写真・文/編集部】

『君の顔では泣けない』は全国で公開中
監督・脚本:坂下雄一郎
出演:芳根京子、髙橋海人
 西川愛莉、武市尚士
 中沢元紀、林裕太/石川瑠華、前野朋哉/前原滉、ふせえり
 大塚寧々、赤堀雅秋、片岡礼子、山中崇
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2025「君の顔では泣けない」製作委員会