『リトル・ハーバー』作品レビュー

 『リトル・ハーバー』

長編部門『リトル・ハーバー』
©Iveta Grófová

長編部門『リトル・ハーバー』
©Iveta Grófová

愛に飢えた少女と、愛に縛られた少年。悲しみの連鎖の中に映る、微かな希望。

若き母と祖母と3人で暮らしている10歳のヤルカ。「親友でいてね」と親であることを拒む母が大好きだった。だが、祖母が亡くなり、置き去りにされてしまった。母を追いかけ街へ行こうとするが、駅で見知らぬ女性から双子の赤ん坊を押し付けられてしまう。ヤルカは過保護な親に束縛されている友達の少年と二人っきりで双子を育てようとする。

若き頃に子供を産み、母であることを受け入れられずにいるヤルカの母は毎日友人とばかり遊んでいる。だが、ヤルカは親に教えてもらわなくとも優しく、強く成長している。そして、親からもらうことができなかった愛をしっかりと双子の子供に伝えていく。双子を一緒に育てる少年とヤルカの微笑ましく、一生懸命な様子に心を打たれる。ストーリー自体は社会問題をテーマにしていて明るい作品ではないが、映像がキラキラした絵本のように美しく、色合いも淡く優しい気持ちになる。だが、それだけでは終わらない強いメッセージが込められていて、その現実をしっかりと受け止めなくてはならないと思わせてくれる作品。

本映画祭では初のノミネートとなるスロヴァキア製作の本作。ヴァネッサ・サムへロヴァー監督は長編デビューとなった『Made in Ash』(12)が数々の映画祭で高い評価を受け、さらに2013年の米アカデミー賞外国語映画賞のスロヴァキア代表に選ばれるなど、早くからその実力を認められていた。本作は、2017年のベルリン国際映画祭ジェネレーションKプラス部門でワールド・プレミアされ、最高賞にあたるクリスタル・ペア賞を受賞した。

【文/片岡由布子】

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