映画祭事務局 長谷川敏行プログラミング・ディレクター、堀切健太(広報・宣伝)

インタビュー
 長谷川敏行プログラミング・ディレクター、堀切健太(広報・宣伝)
―今回15回目の節目ということで、今までと違う大きなポイントはありますか?
長谷川 まずコンペティションの構成を変えました。できるだけ若いクリエイターを紹介し、かつより羽ばたいてほしいということで、日本の長編作品を上映したいという気持ちがありました。去年までは長編コンペティションという部門の中で、絶対にというルールがあったわけではないのですが、毎年3本ずつ日本の長編作品を上映してきました。その数を増やしたいという気持ちがありました。今回は、国際コンペティションに入れて海外の作品と競うに十分だと思う作品は国際コンペティションに入れ、そうでなければ別の形で多く上映できる枠を作りたいということになりました。今年は国際コンペティションに入れた国内作品は1本でしたが、もっと多くてもよかったと思います。日本の作品が今年は例年に比べてレベルが低いということは全くなく、むしろよかったと思います。ただ今年は15周年企画ということで、いろいろな企画ものが多かったことがあり、これ以上上映できないということで、逆に分けたことで国内コンペティションの長編部門が4本しかなくなっているので、これ以上少なくなってしまうことは避けたかったということもあり、今回は1本と4本に分けました。本数は決まっていないので、上映したい作品は積極的に増やしたいと考えてはいます。その目的もあってですが、短編は今までよりも経験の少ない方を紹介して、次のステップとして長編を撮ってもらいたいという気持ちも込めて、今年からは長編経験がない監督に限らせていただきました。その目的をはっきりさせたかったという気持ちがあります。

―ほかにポイントがあれば伺えますか?
長谷川 15周年企画は3つあります。「飛翔する監督たち from SAITAMA」は、去年は我々の映画祭に出品された方で、今活躍されている方の我々の映画祭で上映された作品を上映しようという企画でした。今回は現在活躍している監督で、くくり方を埼玉県出身の監督とさせていただきました。地元の応援というだけではないのですが、埼玉で学んでいたり、住んでいる方で、4人に続くようなフィルムメーカーが出ればという気持ちがあります。次に「名匠たちの軌跡」ですが、監督たちにスポットを当てた企画をやろうと思いました。最初に、若い映画業界を目指す方々、若者たちが見て、学べたり、影響を与えることができる作品を上映したいという気持ちがありました。すでに世界で活躍している巨匠と呼ばれる監督たちが撮影の際にどんなことを考えていたのかというのが見ることができたり、非常に貴重な機会ではないかと思います。今回、日本・アジア・ヨーロッパで集めさせていただき、かつスクリーンで上映される機会が少ない作品です。『A.K. ドキュメント 黒澤明』はもともと劇場公開された作品で、今ではDVD BOXの一部に入っていたりはしますが、劇場で見る機会は少ない作品です。世界の黒澤明ですし、監督も鬼才ドキュメンタリー作家のクリス・マルケルが撮ったということでぜひということになりました。『映画が時代を写す時-侯孝賢とエドワード・ヤン』は是枝監督ということもあり、アジアの中でも台湾のニューシネマの双璧である侯孝賢(ホウ・シャオシェン)とエドワード・ヤンですから、ファンの方も多いだろうし、学ぶことも多いのではないかと思い選びました。『ドキュメンタリー:映画監督ミヒャエル・ハネケ』も日本で上映されたというのが2015年にイメージフォーラムであった特集の1回のみということですので非常に貴重なのではないかと思います。若い映画を志す方に観ていただきたいということで、入場無料ということにさせていただきました。3番目の企画となる「怪盗グルーシリーズ一挙上映」につきましては、お子様だけではなく大人からも人気があるということで、ファミリーに来ていただきたい作品ということで上映することになりました。夏休みですし、三連休の3日間なので思い出作りをしていただきたいという思いです。

―まずコンペティションからお伺いします。今回は国際と国内に分かれており、リニューアルされました。日本映画は1作品が国際コンペティションに入っています。
長谷川 できるだけ日本の長編作品を上映したいという気持ちがあったので、今回コンペティションの構成を変えました。実際に何本上映するのかなというところで、今年は企画も多くあり、私が思っていたよりは多くの作品を上映できなくなってしまいましたが、5本を上映しようとなったときに国内部門が3本だけというのは避けたかったのです。今回国際コンペティションの特徴として、女性監督の作品が多く、また女性をテーマにした作品が際立っていると思いました。今年そういう作品を選ぼうという意識があったわけではないのですが、強い印象に残る作品がたまたまそういう作品が多かったのです。その意味合いも一部あるのですが、今回我々の中で一番驚いたという意味で、中川奈月監督の『彼女はひとり』が非常に強い印象に残る作品だったので国際コンペの作品として競わせたいと思いました。

―今回は全部で832本の応募がありました。全体的な特色はありましたか?
長谷川 国に関しては地域的なばらつきは例年どおりでした。国の数は過去最大の98の国と地域ということで、過去最高の年に比べて一気に10増えたました。今までも現在もオンラインでも応募とDVDでの応募を受け付けているのですが、外国作品の応募はすべてオンラインになりました。応募がしやすくなっているということがあるのかと思います。同時にそれだけの国々にこの映画祭に出してみようと思われたことは我々にとってはありがたいことです。

―コンペティションの作品選定の流れを教えていただけますか?
長谷川 予備審査員がいまして、まずは予備審査員に観ていただきまして、そこでこういう作品がいいとあがってきているものを事務局の作品担当がすべて観て決めています、もちろん初めから観ておかなければという作品は全部観ていますし、作品はすべて最低でも2人は観ているということです。

―今回コンペティション作品で気になったのがアメリカ映画の『ナンシー』ですが、俳優がとても豪華です。そういった点も意識して選んでいますか?
長谷川 この作品に関してはそこがポイントではありませんでした。ただ我々も見ているときに、有名な俳優が出ていることは分かりましたが、今回は監督の繊細かつ大胆な感性の部分がポイントとなりました。私は脚本が特に素晴らしいと思いました。サンダンス映画祭でも脚本賞を受賞しています。スリリングなサスペンス、深い人間の欲望である部分が丁寧に、女性だからかけたような心理的なところがよくできている作品だと思っています。主演のアンドレア・ライズボローは今年のサンダンス映画祭で主演クラスの映画が4本あったということで、インディペンデントな映画とメジャーな作品両方やっているからということもあるかもしれませんが、カメレオン俳優としても注目されている女優ですね。来年公開のサム・ライミ監督の「呪怨」のリブートでも主演で出るということです。二面性なところも演技は圧巻ですね。

―日本映画の本数について改めて伺います。事前にコンペティションの本数は決めていらっしゃいましたか?
長谷川 決めていませんでした。国際コンペを昨年までの長編コンペと同じく12本にするという案もあったのですが、企画上映も鑑みてこの本数に落ち着きました。

―昨年は「もう少し本数があったら」いうお話を伺いました。今回は本数を増やすことができ、さらにMOVIX川口でも上映することが決定しました。
長谷川 MOVIX川口さんで上映することは前々から話してきました。MOVIX川口さんで上映できるとなったときに、一番観てもらいたい国際コンペを上映したいということになりました。

―コンペティション作品としての特徴を教えていただけますか?
長谷川 今年は昨年に比べて、単純なドラマ作品よりはスリラー的なものや、ミュージカルに近い歌を音楽に乗せたもの、そして戦争ドラマなど、単純な人間ドラマというよりはジャンルにくくるというものではなく、明確なものを持った作品が多いと思います。それぞれが個性的だと思います。そういう意味ではぜひ全部を見ていただいて、皆さんの中でどう判断されるかが選んだ立場としては興味があるところです。『ザ・ラスト・スーツ(仮題)』などは圧倒的な感動作ですし、『あの木が邪魔で』は現代的な、我々が暮らしている中で起こりうるのではないかというリアルなドラマで、どれをとっても個性が強い作品になっていると思います。

―コンペ以外のところですが、「怪盗グルーシリーズ」を映像ホールで安価で見れるのはお得ですよね。今までは後半で多かったですが、今回は2日目からありますね。
長谷川 お子様は夏休みになっているのかなと思い、家族で見てもらいたいと思いました。今回は金曜日スタートで例年よりも1日長いです。月曜日が祝日で3連休となるので、ここでまとめて3本を上映したいと思いました。これまでは企画が後半にあることが多かったですが、今回はご家族で思い出作りをしていただきたい、子どものころの印象があれば大人になってからも映画が好きであってくれるかなという思いもあり、思い出作りに協力できれば幸いです。

―「名匠たちの軌跡」では、貴重な作品が揃って上映されますが、どのように集めたのですか?
長谷川 ざっくりと地域的なバランスを鑑みて、どのような作品があるかをリストアップしました。それぞれの巨匠と言われる監督のドキュメンタリーが存在して、見つけて、権利元を見つけるのが大変でしたが、先に作品をFIXして、OKをもらいました。去年の映画祭が終わってから早い段階からアプローチをしていました。

―古い作品を上映するのは権利が難しいことが多いですよね。
長谷川 『A.K. ドキュメント黒澤明』はもともと配給についていたので早かったです。『映画が時代を写す時-侯孝賢とエドワード・ヤン』もたどり着くのが早かったです。一番時間かかったのは『ドキュメンタリー:映画監督ミヒャエル・ハネケ』で、日本に権利元がなかったので、権利元として書かせていただいたのはベルギーの会社なんです。

―そこまで苦労して集めた映画が無料で見れるのはすごいことですよね。
長谷川 そうですね(笑)若い方々に観てもらいたいという思いがあります。なんとか届けたいという気持ちです。

―来場を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
長谷川 映画祭に来たことがない人に一人でも多く来ていただきたいです。その思いも込めて15周年企画として、興味を持っていただける作品を届けたいという気持ちだったので、今まで来ていただけていない方はもちろん、来ていただいている方には毎年来ていただきたいです。一人でも多くの方に映画祭の面白さを知っていただきたいです。
堀切 映画は観てみないと分からないこそおもしろいと思うのですが、SKIPシティに来るまでにハードルがあるのは確かです。ですが、コンペティション作品に限らず、足を延ばして観て後悔しない映画ばかりなのではないかというのは思っています。

【取材・写真・文/編集部】

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