94分ワンショットが生み出す驚異の緊張感で、観る者を犯罪世界へと引きずり込む―緊迫のノンストップクライムスリラー『ナイトライド 時間は嗤う』は、作り手の半端ない熱量と練りに練った脚本が必須の苦労のもとで作り上げられた“ワンショット映画”だ。

電話の向こうの《姿なき》登場人物たち―命運を握る奴らは“死神”か、“愚者”か。絶体絶命の一夜が幕を開ける。恋人との光の射す未来を手に入れるため、裏社会から足を洗おうと最後の賭けに出たドラッグ・ディーラーのバッジ。失ったブツと新たな買い手を探し出すべく、真夜中の北アイルランド・ベルファストを奔走する。電話の向こうの《姿なき》登場人物たち―奴らとの危険過ぎる駆け引きがノンストップで展開する緊迫のクライム・スリラー。

“ワンショット”映画はアルフレッド・ヒッチコック監督の『ロープ』(1948)以降、多くの野心的な映画作家がチャレンジしてきた。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)や『1917 命をかけた伝令』(2019)など、巧みな編集によって、ワンショット風にするものも多く作られている。トム・ハーディ主演の『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』(2013)のような映画を作ろうと監督と脚本家が意気投合したことがきっかけで製作が始まり、声だけの登場人物に翻弄されるというストーリーテリングは『THE GUILTY/ギルティ』(2018)と通じる。『ボイリング・ポイント/沸騰』(2021)など、近年撮影手法がフィルムからデジタルに変わったことで可能になったワンショットという撮影技法は、映画作家たちの意欲と挑戦を刺激し、昨今数多くの作品が作られるようになり映画ファンを魅了している。

しかし、一見低予算ということで作品の出来に不安を感じ、観に行くことを敬遠してしまう人もいるかもしれないが、“1つの作品として限定された尺である必然”と“作品への没入感”が求められるため、そこには普通の撮影をはるかに凌駕する作り手の熱量と創意工夫など、映画作家のこだわりが詰まっているのだ。まさしく『ナイトライド 時間は嗤う』もその系譜の作品の1つとして映画ファンに届けられる。

本作は何週間も費やして脚本を完成させ、撮影もすべてが固定という訳にもいかない状態での、スタッフの影や機材などが窓ガラスにすら決して映ってはいけない中でどうカメラワークを行うかを吟味。さらに音声に関しても、リアリティ重視のためアフレコではなく実際の撮影の音を完全に使用するというこだわりぶり。ロックダウン下のベルファストで、1日11時間のリハーサルを連日1週間重ねた末、6晩で全6テイクの撮影を敢行した。脚本をシーンごとに分解し、時系列に沿ってリハーサルし、次にシーンとシーンを繋ぐ部分、最後に映画全体をいくつかのパートに分けてリハーサルを行うなど、監督、キャスト、スタッフたちが気の遠くなる様な過程を経て完成させた作品だ。そのおかげで観客は、主人公バッジの焦燥感を感じながら先の読めない展開が絶え間なく続き、ヒリヒリとした緊張感が常に付きまとい、まるでバッジの運転する車の助手席にでも乗っているかのような臨場感を味わうことができるだろう。

そして、本作では本物の警察官によって職務質問される様子が映し出される。これもワンショット撮影ならでのハプニングだが、撮影現場で起きたことは全て、スクリーンに映っているというから驚きだ。様々なアクシデントに見舞われつつ結実した奇跡のワンテイクを体感し、スリリングな犯罪世界に没入することが出来る。『ナイトライド 時間は嗤う』は11月18日(金)より公開。

『ナイトライド 時間は嗤う』は2022年11月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国で公開!
監督:スティーヴン・フィングルトン
出演:モー・ダンフォード、ジョアナ・リベイロ、ジェラルド・ジョーダン
配給:ミッドシップ
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