『正欲』の公開記念舞台挨拶が11月11日(土)にTOHOシネマズ六本木ヒルズで行われ、稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香、岸善幸監督が登壇した。

第34回柴田錬三郎賞を受賞した朝井リョウによる小説『正欲』を監督・岸善幸×脚本・港岳彦、稲垣吾郎×新垣結衣の出演で映画化。家庭環境、性的指向、容姿――様々に異なった“選べない”背景を持つ人たちを同じ地平で描写しながら、人が生きていくための推進力になるのは何なのかというテーマを炙り出していく衝撃的なストーリー。岸善幸がメガホンをとり、『あゝ、荒野』で岸監督と組み、本年も執筆作品が立て続けに公開される港岳彦が脚本を担当。稲垣吾郎と新垣結衣が、息子が不登校になった検事・寺井啓喜と、特殊性癖を持つことを隠して生きる・桐生夏月を演じる。物語が進むにつれ、別の場所でそれぞれの人生を歩んできた彼らの関係は、少しずつ交わっていく。どうしたって降りられないこの世界で、生き延びるために大切なものを、強い衝撃や深い感動とともに提示する。

イベントの冒頭では、先日行われた第36回東京国際映画祭で最優秀監督賞と観客賞を受賞した本作の岸監督に、稲垣から花束が贈られた。岸監督は「昨日の台湾のQ&Aもそうだったんですけど、世界にもこの映画は通じるんじゃないかなという感触をちょっとだけ感じています」と感慨深げな様子の岸監督。稲垣も「自分のこと以上にうれしかった」と喜んだ。

完成した本作に「一人一人いろいろなものを抱えて、大変な覚悟で撮影に臨んだと思う。早く一人でも多くの人に届けたい気持ち」と今の心境を語った。岸監督も「真剣に悩みながら作った作品。見た方が話し合うきっかけになれば」とコメントした。

撮影では会うことがなかったり、話すことが少なかったというキャストもいる中で、東京国際映画祭のレッドカーペットや舞台挨拶で会うことができたことで「みなさんの素の部分も見えたりしてうれしかった」と振り返った稲垣。新垣は「一人一人がこの映画を作ることに対して、誠実に向き合っているんだなというのが伝わってきて。私自身苦しくもあり、温かくもありいろいろな気持ちにさせてもらった」と語り、「一緒に作品を作り上げた仲間という気持ちがあって、はじめましてから楽しくお話をしながら分かち合った人たち」と思いを明かした。

劇中での磯村演じる佐々木佳道との関係性について、新垣は「一緒に乗り越えていくという意味では、2人の形は不自然なこととは思わなくて。こういった形で手を取り合って、この先も一緒にいるのは納得していました」と語り、磯村も「家族や家庭はいろいろな形があると思う」と共感している様子だった。また、磯村は「2人のシーンを重ねることに共有ができていた。無理せずゆっくり寄り添っていけた」と振り返った。

一方で、佐藤は「東野さんと対峙していて、僕のほうがセリフは少ないほうなんですけど、見えない綱引きがお互いの中である気がしていて」といい、東野は「2人の空間にいるみたいな時間でした」と振り返った。この2人のシーンについて「あのシーン大好きです」という新垣、稲垣も「素晴らしかった」と称賛した。

また、本作への出演は「僕自身の中でも新しい挑戦」と話す稲垣は「なるべく静かにはっきりとした表現ではなくて、緩やかなグラデーションをつけて演じることができればと思って、監督に指示していただいてやってきた。新しいチャレンジとして楽しかったです」と語った。

さらに、「(映画で使われているのは)僕の中でのベストショットだと思っていて。ベストショットを重ねていくとどのカットがいいのか。横向きの顔がよかったり」と編集を重ねたという岸監督、稲垣も試写を見た際のことを「こんな顔をしていたんだとか」と振り返り、新垣は「どういう風に映っているのか全く考えていなかったのでこういう顔していたんだと思います。自分の目で見ているのとレンズを通してみるのは印象が違うので」と明かした。

最後に稲垣は「見る方によってそれぞれ感じ方とか、視点があると思いますが、最終的には人が誰かとつながること、つながった人間を愛すること。そのためには自分自身を愛することの大切さを肯定してもらえる美しい映画です。大切な作品なので一人でも多くの方に見ていただきたいです」とメッセージを送った。

【写真・文/編集部】

『正欲』は全国で公開中
監督:岸善幸
出演:稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香
山田真歩、宇野祥平、渡辺大知、徳永えり、岩瀬亮、坂東希、山本浩司
配給:ビターズ・エンド
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