『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』の完成報告会見が8月5日(火)に都内で行われ、西島秀俊、グイ・ルンメイ、真利子哲也監督が登壇した。
ニューヨークで暮らすとあるアジア人夫婦。ある日、息⼦の誘拐事件をきっかけに夫婦が抱える秘密が浮き彫りとなり、崩壊していく家族の姿を描いたヒューマンサスペンス『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』。主演は、アカデミー賞で最優秀国際長編映画賞に輝いた『ドライブ・マイ・カー』や、A24製作のシリーズ『Sunny』など国際的な活躍の場を拡げる俳優・西島秀俊。その妻役には、ベルリン国際映画祭の最優秀作品賞を受賞した『薄氷の殺人』や『鵞鳥湖の夜』に出演するなど、人気と実力を兼ね備えた台湾を代表する女優のグイ・ルンメイ。監督は、日本映画界において熱狂的なファンを獲得し、独自の道を行く映画作家・真利子哲也。誘拐事件を発端に破綻していく家族を通して、NYという大都会の片隅で生きる上での、見えない人種の壁、孤独、人と人が分かり合うことの困難さなど、全世界に向けて各々の文化圏の人々に届くテーマを描いた濃密なヒューマンサスペンスが誕生する。
西島は、真利子監督の作品の魅力を「すごく人間の根源的なエネルギーだったり本能みたいなものを、どこか突き詰めていて、それをすごく哲学的なものに感じる瞬間がある」と分析。これまでの監督作では物理的な肉体のぶつかり合いが描かれてきたが、「今回はまた違うところに、次の場所に向かったんだなという風に感じています。言語であったり文化であったり、また別の、ある運命的な暴力であったり、そういうものに監督が向かっているのかな」と、本作で新境地を開いたと語った。
そんな真利子監督の現場でのアプローチについては「テストを繰り返して、カメラと俳優の動きが全て揃った瞬間というのを監督はきっと求めていなくてですね、もっと本当に一回しか起きないような、突発的に起きたことだったり、一見偶然失敗に見えるようなことだったり、そのことで新しく新鮮に生まれてくるものみたいなものを常に捉えようとしている」とその独特のスタイルを明かした。
一方、グイ・ルンメイは、監督の類稀なる感性について「監督は素晴らしい耳を持っているなと思いました」と語る。「俳優が喋っているイントネーションや声のトーンから、監督は何かを分かっているんですね。それでよくやってきて、『今皆さんの演技を見て、僕は感じたのはこういうことだけれども、ちょっと違うやり方でやってみてもらえませんか』というようなことをよくおっしゃっていました」と、言語の壁を越えて感情の機微を捉える繊細な演出術に驚いたという。
本作が生まれた背景には、コロナ禍があったと明かす真利子監督は「アメリカに滞在していて、その後にコロナが起きて、世界も一変して。すごく大事なものだとか日常とか、そういうものを失われた体験を皆さんがしていると思うので、それをきっかけに夫婦を、愛というものを描きたいなと思った」と振り返った。
オールNYロケで敢行された撮影について、西島は「雪が降ってるシーンは本当に降っています。ものすごく寒かったです。寒さが想像以上だった」と過酷な現場を振り返りつつ、「監督が選んだロケーションが、皆さんが想像するニューヨークとは全く違って」と明かし、「ロケーションの力はとても大きかった。本当に古いチャイナタウンだったり、人が生きていた、生きている、そしてかつて生きていた、そして今はもう忘れ去られていくであろう場所でロケをしていたのが印象深いです」と語った。
グイ・ルンメイもまた、「ニューヨークはとても包容力のある街ですが、同時に一人一人がとても孤独だなとも感じました。それは私たちの役柄とすごく似ています」と、街の持つ空気が役作りに影響を与えたことを明かした。
本作では多くが英語での演技となったが西島は「現場に入る前の不安は、入った途端に全くなくなりました」と断言し、「ルンメイさんがナチュラルな感情のままにいてくださったので、自分は入る前に思っていた不安よりははるかに演技の内面に集中して、そのあとに言語がついてくるっていうことをやれていた」と、グイ・ルンメイとの信頼関係が支えになったと感謝した。
そのグイ・ルンメイは、英語の脚本を読み解く上で「日本語の原文ではどういうニュアンスなのか、どういう風に表現するのかを監督に確かめながら、英語のセリフに落とし込む作業をしました」と明かした。
国際的な作品への出演が続く西島は、本作の経験を通して「改めて、海外の企画でいろんな国の人が集まることは、挑戦しがいのある、そして実際思っているよりもはるかに豊かで分かり合える、素晴らしい時間を過ごせるものなんだなということを感じました」と語り、その根底には「映画を撮るという、まず大きな共通言語がある。そのやり方というのはやっぱり世界であまり変わらないんです」と語った。
【写真・文/編集部】
『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』は2025年9月よりTOHOシネマズ シャンテほか全国で公開
監督・脚本:真利子哲也
出演:西島秀俊、グイ・ルンメイ
配給:東映
©Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.