『冬薔薇(ふゆそうび)』の初日舞台挨拶が6月3日(金)に新宿ピカデリーで行われ、伊藤健太郎、阪本順治監督が登壇した。

阪本順治監督によるオリジナル脚本で、人間の業を切なく儚く紡ぐ本作。主人公の青年・渡口淳を演じるのは、本作が2年ぶりの映画出演となる伊藤健太郎。阪本監督が伊藤健太郎をイメージして当て書きした。ある港町。専門学校にも行かず、半端な不良仲間とつるみ、友人や女から金をせびってはダラダラと生きる渡口淳(伊藤健太郎)。“ロクデナシ”という言葉がよく似合う中途半端な男だ。両親は埋立て用の土砂をガット船と呼ばれる船で運ぶ海運業を営むが、時代とともに仕事も減り、後継者不足に頭を悩ませながらもなんとか日々をやり過ごしていた。淳はそんな両親の仕事に興味も示さず、親子の会話もほとんどない。そんな折、淳の仲間が何者かに襲われる事件が起きる。そこに浮かび上がった犯人像は思いも寄らない人物のものだった……。

「すごくドキドキしていました。どういうふうにみなさんの元に届くのかなというのもそうですし、初日ってこんなにも愛おしものなんだな」と感慨深げに挨拶した伊藤。本作で初タッグとなった伊藤と阪本監督だが、初対面では「私はこんな顔ですから、相当おびえてた…。初対面で40歳の年齢差はともかく、一本映画を撮ろうということで仲間意識を持たないといけないので、深堀りをして濃厚な時間を過ごしました」と振り返った阪本監督。しかし、その場での会話は「お互いに墓場まで持っていきましょうと」と約束したという伊藤は「家族とか環境の事とか」と明かした。

初対面では「正直怖いなというところはあった」という伊藤だが「おもしろいことが大好きな方。何より作品に対して、役者に対して愛をもって接してくれる方」と阪本監督の印象を語り、「あまり見せないようにしている部分も監督には見透かされている」と笑顔を見せた。そんな伊藤について「気持ちは強いけど心はガラス板」と表現した阪本監督は「たまに大きく笑うことが寂しく感じる」と長い時間を共にしたことで感じたことを明かした。

劇中で親子関係が描かれているが、脚本は「彼自身の父親との距離感のお話があったので聞きつつ」と参考に作り上げたという阪本監督。そんな脚本について「父親と会話をするシーンがあるんですけど、内容も状況も違うんですけど、こういう感情で自分の父親、母親もそうですけど話に行ったことあるなとか、過去の自分の感情と近い感情がたくさんあるので、逆に難しかったです。自分の感情が前に出てしまいそうな」と印象に残ったという。

本作に出演したことで「ガラッと変わったことはない」という伊藤にとっての家族との関係性だが「なるべく日々の感謝を伝えて見ることだったり、思ったことをごまかさずに、伝わりやすいように言う。先日、母の誕生日だったので、普段言わないようなことをメールで送らせてもらった」と変化もあったことを明かした。

また、「みんなどこかさまよい、自分の居場所を見つけられずに漂う人たちの映画。コロナの時期に自分の弱いところを見つけて、ネガティブなことばかり考えたので、これは伊藤くんの復帰作でもありますけど、僕の復帰作でもあります」と本作への思いを語った阪本監督。伊藤は「自分にとっては、役者として生きていくうえでなくてはならない作品。自分にとって20年後、30年後、40年後に改めて見た時に自分がどう感じるのかが楽しみ。いい意味での捉え方できる人間になっていたい」と語った。

イベントの終盤では、伊藤から阪本監督に花束が贈られ、手紙が読まれた。「『冬薔薇』は僕にとって宝物です」「『冬薔薇』が僕にとって、自分の第2章の始まりだと思っています」「芝居が大好きだと改めて強く思いました」と感謝の気持ちを込めた伊藤の手紙を受け取った阪本監督は「ちょっとまいったな…」とサプライズに驚きを隠せない様子で、「伊藤健太郎という人と仕事をすることがなければ、このような脚本は一生書いていないので、僕にそういう物語をつづらせてくれた伊藤くんに感謝です」と言葉を振り絞った。

伊藤は「監督と出会えてなかったら、こんなにも素敵な作品に巡り合うことも、共演者のみなさんと巡り合うこともなかったと思うし。なんで自分ってこんなに人に恵まれているんだろうとすごく思うんです。こういう方々が近くにいてくださることが、素敵なものを届けることが自分の使命だと思っています。これから先も、芝居、映画、ドラマ素敵なものを届けられ続けられる、役者になっていきたいと思っていますので、これからもどうぞみなさんよろしくお願いいたします」と語った。

【写真・文/編集部】

『冬薔薇』は全国で公開中!
脚本・監督:阪本順治
出演:伊藤健太郎、小林薫、余貴美子、眞木蔵人、永山絢斗、毎熊克哉、坂東龍汰、河合優実、佐久本宝、和田光沙、笠松伴助、伊武雅刀、石橋蓮司
配給:キノフィルムズ
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