行定勲監督、トム・リン監督

亡き最愛の妻に捧げる珠玉のロードムービー『百日告別』のトークイベントが2月6日(月)に台湾文化センターで行われ、本作のトム・リン監督と映画監督の行定勲が登壇した。

2012年に妻を亡くしたトム・リン監督自身の体験を基に描いた本作。今回、来日中のトム監督に加えて、行定勲監督がサプライズゲストとして登壇した。

上映後の会場に登場したトム監督は、日本公開決定に「とてもうれしい」と笑顔で挨拶。さらに「台湾以外でこの映画を理解してくれるのは日本しかないんじゃないかと思います」と日本と台湾に共通点があることを語った。本作で、自身の体験を描いたことで「たくさんの手紙が寄せられた」と明かすトム監督。そのことが大きな力になったとも語った。

本作では、台湾のバンドMaydayのギタリストであるシー・チンハンが主演を務めているが、トム監督自身を思い出させるような役柄ではあるものの「現場でのコミュニケーションはあまり多くなく、演技指導も必要なかった」と明かしたトム監督。その理由を「クランクイン前にかなり時間を使って議論した」と振り返った。この役柄の過去はどうだったか、最愛の人を亡くした喪失感はどういったものか、それらを事前に語り合ったという。そのため、現場に向かうシー・チンハンは「役柄そのもの」に見えたということで、役作りを壊してしまうことを恐れて挨拶することすら躊躇したと明かした。

ここでサプライズゲストとして行定勲監督が登場すると、トム監督はあまりに突然の出来事に興奮気味の様子。釜山映画祭で一度会ったというトム監督と行定監督。トム監督は、行定監督の『きょうのできごと a day on the planet』が好きだといい、行定監督も『九月に降る風』を劇場に2回見に行ったとお互いの作品を称賛。さらに本作について行定監督は「男と女の関係に嘘がない。(この状況で)性を描くのはタブーだと思うけど、(実際は)日常の延長線にあるもので、この映画ではそれが描かれている。勇気があって、リアリティがあって、そこに共感した」と絶賛した。また「伝えたいことを伝え、みなさんとコミュニケーションを取れた。映画を通してみなさんがとつながった気がする。この映画が日本で公開できて感謝感激です」と感慨深げに語った。

行定監督が絶賛したリアリティについてトム監督は「主演のSTONE(シー・チンハン)やカリーナさんもリアルな演技を見せてくれた。カリーナさんはクランクイン2か月前に父親を亡くしており、日程を調整するか聞いたら『立ち向かうしかない。予定通りにやります』と」と明かし「僕だけではなくチームワークのおかげです」と語った。さらにカリーナを起用するにあたってどのようにオファーをしたかを聞かれたトム監督は「ウディ・アレン監督が、初めて仕事をする女優に自筆の手紙を送ると聞いた。僕も真似をしようと送ったら、会ってくれることになり、そうこうするうちに引き受けてくれました」と明かすと、行定監督は「真似しようかな(笑)」と笑いを誘う場面もあった。

また、『真夜中の5分前』(2014)で台湾のジョセフ・チャン、中国のリウ・シーシーをキャストに迎えて映画を撮った行定監督だが、MCから「トム監督と撮るのはどうですか?」と話を振られると、トム監督はすかさず「台湾では僕はよく知られている助監督ですよ!いい監督だと自慢はできませんが、いい助監督です」とアピールし、場内からは大きな笑いが起きた。行定監督は『真夜中の5分前』も台湾で撮ろうと思ったと明かした上で「台湾がすごい好きなんです。台湾にしかない空気や湿度がある」と前向きに答え、逆に行定監督からは「お互いの台本を取り換えて、お互いのところで撮るのもおもしろい」と提案するなど盛り上がった。

イベントの終盤では、2月8日に41歳の誕生日を迎えるトム監督にサプライズでバースデーケーキが用意され、再びのサプライズにトム監督は満面の笑みを浮かべ「一人でこっそりと過ごそうと思っていたんですけど・・・」と照れ笑いしながら「この時期に日本に来るのは内心では喜んでいました」とコメントした。最後にトム監督は「みなさんの周りにこの映画を必要としている方がいたら勧めてください。喪失を克服するには時間が必要だと思いますので、いま見れない人はいつかまた見ていただければ自分を知ることができると思います」とメッセージを送った。

本作は、台湾、そして沖縄を舞台に、愛する人との忘れられない記憶を辿る、喪失と再生の物語。監督は台湾新世代の有望監督トム・リン。2012年に愛する妻を亡くしたトム監督が「映画を作り続けて・・・」との亡き妻の願いを受け、自らの思いを込めて撮り上げた。主演のカリーナ・ラムは、本作が結婚・育児休業後のカムバック作品で、本作で第52回金馬奨主演女優賞を受賞した。もうひとりの主演を、台湾のスーパーバンド「Mayday」のギタリストであるSTONE(石頭)ことシー・チンハンが演じる。

トム・リン監督

行定勲監督

バースデーケーキを持つトム・リン監督


映画『百日告別』は2017年2月25日(土)よりユーロスペースほかで公開!
監督:トム・リン(林書宇)
出演:カリーナ・ラム(林嘉欣)、シー・チンハン(石錦航)、チャン・シューハオ(張書豪)、リー・チエンナ(李千娜)、ツァイ・ガンユエン(蔡亘晏)
特別出演:アリス・クー(柯佳?)、マー・ジーシアン(馬志翔)
配給:パンドラ
2015年/台湾/96分
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