『市子』の大ヒット御礼舞台挨拶が12月17日(日)にテアトル新宿で行われ、杉咲花、戸田彬弘監督が登壇した。

本作は、監督の戸田彬弘が主宰する劇団チーズtheater旗揚げ公演作品でもあり、サンモールスタジオ選定賞2015では最優秀脚本賞を受賞した舞台「川辺市⼦のために」が原作。観客から熱い支持を受けて2度再演された⼈気の舞台を映画化。川辺市子(杉咲花)は、恋人の長谷川義則(若葉竜也)からプロポーズを受けた翌日に、突然失踪。長谷川が行方を追い、これまで市子と関わりがあった人々から証言を得ていくと、彼女の底知れない人物像と、切なくも衝撃的な真実が次々と浮かび上がる…。

12月8日(金)より公開された本作だが、「想像以上の反響、お声をいただいています。広がっているのを実感して驚いています」と感慨深げな様子を見せた戸田監督。杉咲も「感無量です。『市子』という映画に出会えたことが財産だと思っています。“うれしい”の一言に尽きる」と喜んだ。

冒頭では、本作がスウェーデン・ヨーテボリで開催されるヨーテボリ映画祭(2024年1月26日~2月4日)への出品が決定したことが発表された。この映画祭での上映が本作のヨーロッパプレミアとなる。この発表に「北欧に行ってみたいなと思っていた」と笑顔の戸田監督だが「(映画祭に)行きたいと思っているんですけどまだ行けるか分からない。違う文化のところでどう受け止められるかは楽しみに感じています」と期待を寄せた。杉咲も「うれしいです、どんな風に受け取っていただけるんだろうということが楽しみです。一人でも多くの方に観てもらえる機会が増えたことが何よりありがたい」とコメントした。

舞台挨拶では観客からの質問に杉咲と戸田監督が回答。『おちょやん』でも関西弁で演じた杉咲だが「時代も変わったのでイントネーションも変わったセリフも多かったです」と明かし、本作では自身を呼ぶ“うち”の使い分けこだわったという。また、本作では高校生から大人までを演じている杉咲だが「何歳の設定だからと意識したことがなくて」といい、事前に市子の人生を記した年表を戸田監督から渡されていたことで「その時、市子がどういう状態であることかは把握することができたので、目の前の相手が変わるにつれて自分の態度も変化していく感覚でした」と自然と生まれた変化であったことを明かした。

劇中には市子を捉えた写真が登場するが「写真は印象的に入れ込んでいきたいと思って作っていった」という戸田監督。劇中では、若葉竜也が撮影した写真を使用しているといい、「幼少時代の家族で写真を撮っていた時に遠くから見ていて、あまりにもかけがえのない時間が流れていて。その瞬間を写したいと思って残った写真は何かとくべtなものがるなと感じます」と振り返った。

暑い中での撮影だった本作だが「暑さやダルさは市子を演じるうえで必要な感覚というかお芝居に作用していて、あの時期に撮影ができてよかった」と振り返る杉咲は「(役を演じることで)心を侵食されるような瞬間はもあったんですけど、そうなりかけるときほど市子と距離を置くようにしていました」と演じる上で心がけていたことを明かし、「自分が市子だと思って過ごしていると、市子のことをわかった気になってしまう気がして、それを避けたかったので、撮影が終わってホテルに帰ってきたときに、お腹が空いたな、夕日がきれいだなと自分の感覚に素直にいるように心がけました」と明かした。

母親役を演じた中村ゆりとの共演について「9年くらい前にも親子役をやったことがあってとても久しぶりの再会でそこに縁を感じていた」と語る杉咲は「多くの言葉を交わしたわけではなかったんですけど、ゆりさんと自分との間につながりを感じながらカメラの前に立つことができた」という。さらに「ゆりさんはそこに住んでいるように現場に存在される。がんばって家族になろうとしなくても、気づいたら自分も母として捉えている感覚だったので、存在に救われた」と明かした。

最後に、花束を受け取った杉咲は「原作者である戸田さんがゼロから生み出したお話で、この出会いを幸せに感じているので戸田さんにお渡ししたい気持ちです。素晴らしい作品に関わることができて幸せだった気持ちが大きい」と改めて感謝し、「市子という人を構築するのにいろいろな様相があると思いますが、一つ一つが不幸なのか幸福なのかは自分たちには決められなくて、市子がどんなことを考えているかを想像していただけたらうれしいです。共感や感動と隣に並ぶ何か豊かなものが存在していると信じています。そのまなざしを自分たちのすぐ近くの人々や世の中に向けてもらえたらうれしいです」とメッセージを送った。

【写真・文/編集部】

『市子』は全国で公開中
監督:戸田彬弘
出演:杉咲花、若葉竜也、森永悠希、倉悠貴、中田青渚、石川瑠華、大浦千佳、渡辺大知、宇野祥平、中村ゆり
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2023 映画「市子」製作委員会